
田中泰輔
2024年1月には、日米株がそろって急上昇した。速すぎる相場にはおのずと反落の力学も生まれる。しかし日米とも、この株価急騰が上昇相場のトレンドを進む狼煙(のろし)と考える理由がある。そして、日米株高を支えるマクロ環境として、米国の景気堅調、インフレ鈍化、ほどほど低めの金利水準が保たれるか否かの分水嶺では、円相場が明快なシグナルになろう。

米国では2024年に景気・インフレが軟着陸に向かい、金利は下降サイクルをたどるとの見方が強まった。このため23年11月以降、株価は堅調だったが、この流れが単純に続くとは考えにくい。金利が順調に低下する場合でも、米国株には明暗の分岐があり得る。そこからドル円、日本株、新興国の明暗に連なるシナリオ分岐が浮かび上がる。さらに欧州、中国、地政学のリスクが絡む。そんな24年の投資環境を総括する。

11月に期待していた国の債券高と株高は、期待を大きく上回るラリーになった。出来過ぎ相場を促したFRBのハト派スタンス、景気・インフレ指標の陰り、10月後半の総悲観相場の反動は、それぞれに今後も揺らぎがあるとみて、慎重に構えている。3~6カ月かけて、金利低下からの株高、そして株安への潜在的リスクを見極める必要がある。今後、生成AI(人工知能)テーマを踏まえて、投資家としてどう臨むべきかを論じる。

今年8~10月、投資家は米国の債券安(金利上昇)にあおられた株安に苦しんだ。米金利高は円を対ドル150円台の介入警戒域に押しつけて膠着させてきた。日本にとってのトリプル安を軸として見ると、世界の投資環境を圧迫する、一見がんじがらめの構図が浮かび上がる。解きほぐす鍵は、やはり米債券金利であり、11月はその潮目の入り口と考える。

ドル円相場は、1年前に151円をピークに反落したものの、今再び150円に絡んでいる。そしてまた、「50年ぶりの円安=日本衰退」論が浮上している。米日の金融政策で説明できる円安をもって、なぜ日本を極端に卑下するのか。その論拠となる理論の正体とともに、為替を読む実践的な指標、視座を明らかにする。

コロナ禍で不可抗力的にもたらされたインフレは、「悪いこと」という心象が強いだろう。しかし、消費者の目がイヤイヤながら値上げに慣れるにしたがって、企業は値上げを進め、名目で売り上げを伸ばし、インフレ益を得て、賃金も上げる流れになっている。インフレで名目GDP(国内総生産)が膨らむ中で、企業の改革機運も生まれ、株高にもつながり、日本の自律性が芽生えつつある。しかし、この自律性も米国経済の事情という他律を免れてはいない。

パウエルFRB(米連邦準備制度理事会)議長は「もはやリセッション(景気後退)を予想していない」と語った。この見方には、警戒すべきリスク要因がある一方、市場がそれをコンセンサスとして相場形成する時間的猶予ももたらし得る。このため、これまでよりポジティブな投資戦術・戦略を組む妙味があろう。米株サマーラリー一服での相場の夏ダレは、それ自体が秋相場へつながるか、じっくり思いを巡らす一時になるだろう。

ドル円は、昨年10月151円、今年1月127円、さらに最近145円から数日で138円と、値動きが激しい。これは米金利サイクル上方の曲がり道に典型的な波乱展開だ。ドル円相場は主に米金利、すなわち米ファンダメンタルズに沿って動く。日本と海外金利差の拡大時には、リスクに敏感な投機が集まり、米国、日本のみならず、世界の動向を探るシグナルとして重宝する存在だ。

米株式相場は6月前半に上昇を加速させた。筆者は当欄で4月、5月と、株式のアク抜け相場が慢心を生むリスクを論じた。しかし相場は今や慢心どころか、華やかな値動きを追認的に正当化し、買い気を最大限に発現させるゾーンに入った感さえある。心理相場の暴走は速く大きく、投資家としてその妙味は取り込みたい。しかし、そこには典型的なワナもある。

米国で政府債務上限交渉に合意のめどが立てば、株式には短期的に上値トライの視界が広がるだろう。うまくすればサマーラリーに至る相場があり得るとした、前月当欄の想定がようやく形になるかもしれない。しかも、日本株が先導するかのごとくの展開である。改めてこの米日両相場の背景を踏まえ、短期から中期に至るチェックポイントを確認したい。

米金融不安がいったん遠のいたかという安堵、FRB(米連邦準備制度理事会)の利上げは打ち止め間近かという安堵は、株式相場に慢心の上昇を招くかもしれない。しかし、長短金利サイクルを組み合わせてみれば、その水準、逆イールド、信用タイト化から、今が景気悪化前夜であることは明らかだ。株式の逆業績相場入りのリスクへ警戒を怠れない。

米SVBに端を発し、欧州大手クレディ・スイスをも破綻に至らせた金融不安。金融不安は経済現象というより、心理現象として一気に広がるだけに、当局は迅速に対応措置を講じる。しかし、いったんもたげた金融不安は容易には鎮まらず、景気、株式相場の下降サイクル入りを前倒しさせる恐れがある。もっとも、サイクル投資の基本を固守していれば、それはこうした場面の守りにも攻めにもなる。

米株式相場は過去半年、インフレや経済について2022年8月に楽観、9月に悲観、10~11月にじわり楽観、12月に悲観、23年1月に楽観、2月に警戒と、見方をほぼ月替わりで変転させてきた。しかし、実体経済がこれほど目まぐるしく変化しているはずもなかろう。実は23年は、株式市場の心象風景の明暗を振らせる事情がある。

超円安が急反転した。ドル円相場を米金利サイクル現象と踏まえれば、容易に理解・対応できた動きだろう。日本衰退、貿易赤字、資本逃避など、相場とは筋違いの悪い円安論調を真に受けていたら、相場の潮目は捉えられない。明快な相場なら淡々とメリットとして取り込む構えとロジックがなければ、来るトリッキーな円高サイクルでも割を食いかねない。

数年前までブラックスワン(経験的に予測できない極端な影響を持つ現象)と思われていた地政学、地球環境、パンデミック、テクノロジーなどの諸問題は、コロナ禍以降、そこかしこに産卵され、孵化(ふか)しかかっているものもある。2022年より23年の方が、経済、金融におけるミンスキー・モーメント(急転直下で市場の情勢が悪化する瞬間)が生じるリスクが大きいと警戒する。

米利上げペース鈍化を政策転換と誤解するかのように、市場では株式も債券も上昇し、政策金利は2023年を通じて経済もインフレもソフトランディングに向かうかのような織り込み具合である。しかし、経済実態は方向性を明確化できるだけの証拠を示せる段階ではない。証拠がないがゆえに変転しやすい心理に主導される相場に振らされない視座、2023年への投資家の構え方を考える。

ドル高円安をサイクル現象として捉えると、多くの論点の整理がしやすくなる。日本衰退など今の円安に絡めて論じる筋違いも容易に理解できるだろう。円安は日本経済にとって明暗両面があるが、少なくとも日本のマクロ経済、株式相場が他の先進国より落ち着いている背景になっている。いたずらに不安視することなく、サイクルをうまく取り込んでほしい。

一見混迷する米株式相場も、中央銀行の行動ではなく、先行するインフレと中長期金利に基づくサイクルとして解釈すれば、より明快な指針が浮かび上がる。実はドル円相場は、米株式相場以上に金利に直接連動するため、サイクルをより明快に捉えやすい。サイクルを適切に理解すれば、この超円安についても、無用な不安を克服して、シンプルに生かすすべを考えられるだろう。

株式相場では、景気サイクルに沿った金融政策の局面に応じたサイクル投資が有効なアプローチの一つだ。しかし、コロナ禍以降の経済と市場は、通常のサイクルとは大きく予想を異にする。特に、突飛なインフレが景気サイクルに先行して進み、金融政策が後手に回っている。インフレと金利と景気、更に株式、債券、為替、商品など各市場が錯綜する正念場を控え、明快で柔軟に対応するための指針として、サイクルの新解釈を提示する。

米株式市場は、経済指標の悪化や、芳しくない決算を横目に、サマーラリーの様相を呈してきた。株高を追認して好材料が強調されるのは相場の常。そこにインフレ指標の鈍化が相次ぎ、相場はさらに加速している。予期されたインフレ鈍化が半歩早まっただけでの相場加速の背景は何か。そして、米国のみならず世界の経済も市場も、3~6カ月後に重大な変曲点になり得ると警戒する理由がある。
