
吉川雅幸
1ドル=151円台を超える円安の根底には、日本の国際収支の構造変化と米国の「日本化」リスクが低下したことがある。長らく1ドル=100~110円を中心に上下10~20円だった変動レンジが20~30円、円安方向にシフトした可能性がある。

FRBの利上げが最終段階に近づく中、米金利とドルは緩やかながらピークアウトし米国からの資金流出が始まると予想される。資金分散先は、デフレ期を脱却し投資活発化が見込まれる日本や新興国の一部などが考えられる。

FRBは5月の0.25%利上げでいったん利上げを打ち止めにし、緩やかな景気減速のもとでインフレを落ち着かせるシナリオだ。ただ、金融不安が商業用不動産市場へと不安が波及するリスクなどが残る。

ドル高は米国の経常赤字が拡大する中、内外金利差拡大で海外からの資本流入増加がそれを上回ったことによって起きたが、来年前半にかけて局面が変化しドル高の流れも変わる可能性がある。

国際収支構造の変化で円安が進みやすくなっている。歯止めがかかる場合は米景気悪化や対日直接投資の増加、日本のインフレ率押し上げの3つのケースが考えられるが、いずれも不透明な要素がある。

ドル建てGDPは2030年には米国と中国が拮抗(きっこう)する。かつて「ナンバー2」だった日本は米中に大きく水をあけられたが、生産性を上げるため研究開発投資や教育の拡充などに地道に取り組むしかない。

長期金利の上昇はインフレ懸念とFRBの利上げ前倒しが主なドライバーだったが、今後はECBの「タカ派化」とウクライナ危機によるユーロ圏の経常収支縮小がもたらす資本フローの変化が金利を動かす陰の主役になりそうだ。

今の1ドル=113円前後の円安は、米国との金利差拡大を反映したもので「悪い円安」ではないが、この10年の日本の貿易や投資の構造変化を考えると、円の変動幅は今後、円安にシフトしていく。

コロナ禍の大規模金融緩和縮小が視野に入り始めたが、長期金利は安定している。コロナ対策で供給された緩和マネーが企業や家計の貯蓄としてたまり、金利上昇を抑えるクッションになっていることがある。

主要国では予想より早く年後半は経済回復が本格化する見通しだが、雇用削減でダイナミックな変化につなげる米国と社会の安定を重視する日欧の雇用調整の違いが回復速度の差にもなっている。
