もう一つ、孫子で注目すべきものが緻密な観察眼である。原理原則を大所高所から述べるのではなく、人間観察によるミクロの視点が厚みを与えている。それが孫子に普遍性をもたらしているのだ。

上場企業アンケートで判明!
3割の経営者が現場で実践

 自身の決断が数千、数万の社員の人生を変える──。大企業の経営者は、常に重責を担い、孤独と戦いながら決断を下している。だが、不透明な経営環境の中では、時に判断に迷うこともある。

 そんな経営者たちの支えになっているのが、孫子だ。本誌は上場企業の時価総額上位1000社に独自アンケートを実施し、経営者がどんな経営思想を参考にしているのか調査した。

 その結果、孫子に影響を受けたと答えた経営者の比率は31%に上った。ピーター・ドラッカー(44%)に次ぐ2位で、経営学者のマイケル・ポーターや世界的ベストセラー『ビジョナリー・カンパニー』の著者、ジム・コリンズよりも上だ。

 では、約2500年前の戦国の世に生まれた孫子は、どのように現代の経営に生かされているのか。アンケート結果を基に読み解いてみよう。

 経営者が孫子の教えを最も活用しているのが、「部下や組織のマネジメント」においてだ。アンケートで自分が好きな孫子の言葉として「一に曰(いわ)く道、二に曰く天、三に曰く地、四に曰く将、五に曰く法」(開戦前にリーダーが考えるべき五つのポイントについての指摘)を挙げた経営者が多かった。

 次いで活用例が多かったのが、孫子の本質である戦略論、つまり「競合他社との競争」だ。

「彼(か)れを知り己れを知らば、百戦して殆(あや)うからず」(敵を知り己を知れば、100回戦っても危うくはない)という言葉はあまりにも有名だが、ほかにも「未だ戦わずに廟算(びょうさん)して勝つ者は、算を得ること多ければなり」(開戦前の作戦会議で勝算が立つのは勝てる条件が整っているからである)という言葉を挙げた経営者もいた。いずれも戦う前の準備が勝敗を決するという指摘である。