「ヒト・モノ・カネ」と言うが、産業の発展にとって産業金融が果たす役割は極めて大きい。金融は、いわば産業の血流である。どんなに脳(研究開発)が活性化していても、身体(製造販売)が頑強でも、血流が止まれば人も産業も生きていけないのである。体内で血を作り送り出す諸臓器に該当するのが金融機能であるが、高度成長期以来、日本では一貫して銀行が強大な力を維持し、これを一手に担ってきた。いわゆる直接金融の道も広がってきてはいるが、産業界における活用は未だ部分的なものに過ぎず、PE(プライベート・エクイティ)ファンドなど欧米では産業金融の主役を張るプレイヤーも未成熟である。この産業金融を改善することが日本の成長のカギを握っていることは言を俟たない。その観点から、政府が去る6月18日、「『元気な日本』復活のシナリオ」として公表した「新成長戦略」を検証してみたい。

  新成長戦略は、以下の7つの戦略分野を定めている。
(1) グリーン・イノベーションによる環境・エネルギー大国戦略(2.5)
(2) ライフ・イノベーションによる健康大国戦略(2.5)
(3) アジア経済戦略(2.5)
(4) 観光立国・地域活性化戦略(6)
(5) 科学・技術・情報通信立国戦略(2.5)
(6) 雇用・人材戦略(4.5)
(7) 金融戦略(1)

 上記各項目の後ろのカッコ書きの数字は、それぞれの項目に割かれている紙数を数えたものだ。金融戦略に割かれた紙数は、他の分野に比べて極めて貧弱であることが読み取れる。実は、新成長戦略ペーパーの冒頭部分である「基本方針」においては、「内外の投資家やマーケットの信認確保」「金融・資本市場の健全な発展とリスクマネーの供給」を通し、「資金循環面から成長が制約されることのないよう最大限の努力を行う」との記載があるので、政府も産業金融の強化が成長戦略の重要な要素であることは認めているようである。

 すなわち、政府は、金融分野の強化が必要と考えながらも、具体策を打ち出しあぐねているというのが実態なのだ。事実、上記7つの戦略分野を具体化した「21の国家戦略プロジェクト」の中には、金融分野は僅か1つしか入っておらず、それも「総合的な取引所の創設の推進」という、産業金融の強化という本題からかなり視点がずれた政策になってしまっている。