「増税王子」で逆風…小泉進次郎“総理”はあり得る?佐藤優の意外な評価「総裁になるための絶対条件」はクリア小泉進次郎元環境相 Photo:Tomohiro Ohsumi/gettyimages

9月27日に投開票が行われる自民党総裁選挙。一時は圧勝するとみられていた小泉進次郎氏だが、解雇規制緩和や「受給開始年齢は80歳でもいいのではないか」などの過去の発言を受けて「増税王子」のあだ名がついて失速し、小泉進次郎氏、石破茂氏、高市早苗氏の3人が競り合う混戦状態に突入している。元外交官で作家の佐藤優氏は候補者をどう評価するのか――。(作家・元外務省主任分析官 佐藤 優、構成/石井謙一郎)

安倍政権以降、
官邸が政治を動かしている

 自民党総裁選には、高市早苗・経済安保相(63歳)、小林鷹之・前経済安保相(49歳)、林芳正・官房長官(63歳)、小泉進次郎・元環境相(43歳)、上川陽子・外相(71歳)、加藤勝信・元官房長官(68歳)、河野太郎・デジタル相(61歳)、石破茂・元幹事長(67歳)、茂木敏充・幹事長(68歳)と、過去最多の9人が立候補しました。

 さてこの中の誰が、という話へ入る前に、岸田政権の3年間を総括しておきましょう。

 法政大学教授の山口二郎さんと9月に出した共著『自民党の変質』(祥伝社新書)でも指摘しましたが、菅政権と岸田政権は、基本的に安倍政権と同一です。安倍政権から始まった一つのシステムが、維持されているからです。

 長期政権下で、安倍総理は一種の「機関」になっていきました。安倍さん自身は政治イニシアティブを発揮せず、政策立案を官邸の側近(官邸官僚)に任せて、安倍さん自身が「必要だ」と判断したものだけにゴーサインを出すようになった。つまり、実際に政治を動かしたのは安倍さん個人の意思ではなく、官邸の意思なのです。官邸官僚を頂点とする官僚機構はこれによって強い力を獲得しました。

岸田外交が奏功したのも
官邸官僚の力

 この機関が維持されたのは、財務省や外務省、経団連(日本経済団体連合会)、あるいは日本会議の人たちにとって都合がよかったからです。社会のエリート層のコンセンサスを得て、その中でうまくバランスを取っていたから、エリート層におけるすべてのステークホルダーにとって、政権が代わらないほうがいい状況が続いていたのです。

 つまり戦前の昭和天皇と同じように、安倍さんは“首相機関”となり、システムとして定着したわけです。菅政権では首相個人への権力集中が高まったものの、このシステムは安倍さんから菅さん、そして岸田さんへ踏襲され、官僚の発言権や意欲は維持されました。

 岸田総理は「新しい資本主義」を唱えましたが、具体的に何か新しい政策があったのか。話題になったNISA(少額投資非課税制度)は安倍さんもやっていました。

 ただし岸田さんは、外交だけは自らのイニシアティブを発揮して、積極的に行いました。西側諸国が経済制裁を科しているロシアからエネルギーの調達を続けていることが、第一の功績です。国民の関心はどうしても景気に向きがちで、外交に対する関心が低いため目立たなかったにすぎません。岸田さんの外交が成功したのは、官邸官僚である国家安全保障局長兼内閣特別顧問の秋葉剛男さんが、しっかり計画を立てて実行してきたためという点に尽きます。

 経団連にとっても、産業に必要なエネルギーを確保してくれる岸田政権に対して「基本的には問題はない」と判断し、不満を持っていません。

 安倍政権から岸田政権まで続いてきたこのシステムという点から、今回の総裁選候補者を見ていきます。