「首都圏でも電気自動車(EV)の普及促進に向けて、徐々に環境が整ってきた」。こう言うのは、日産自動車と三菱自動車工業の幹部だ。

 ここでいう“環境”とは、マンションに設置する200ボルトの電源や急速充電器などEV用充電設備のことである。

 2009年7月に三菱自動車が「アイミーブ」を発売し、10年12月には日産自動車が「リーフ」を発売の予定。12年にはトヨタ自動車やホンダもEVを市場投入するということもあって、EVはクリーンな“次世代自動車”として、世間の関心が高まっている。

 経済産業省では、EVの普及率(充電式のプラグインハイブリッド車を含む)は、現在のゼロに近い状態から、20年には15~20%まで拡大すると予測している。特に期待されているのが、マンション居住者が多い都市部での移動や通勤など近距離での利用である。ただし、既存のマンションには、駐車場に充電設備がなく、「EVを一般に普及させるためには、マンションでの充電設備の普及が急務」(益子修・三菱自動車社長)と言われてきた。

 しかし、その状況が変わりつつある。昨今、大手不動産会社が手がける新築マンションで、EVの充電設備やカーシェアリング(共同利用)を導入する「EV対応型エコマンション」が相次いで建設されているのだ。

 たとえば、三井不動産は、11月13日から販売を開始した分譲マンション「パークタワー勾当台公園」(宮城県仙台市)のほか、来年早々にも発売予定の「パークホームズ等々力レジデンススクエア」には、充電設備を設置する。

 伊藤忠都市開発は、分譲マンション「クレヴィア江坂」(大阪府吹田市)や「クレヴィア二子玉川」(東京都世田谷区)でEVのカーシェアリングを導入、これをマンションのセールスポイントにしている。来年以降完成する首都圏の複数の物件にも充電装置やカーシェアリングを順次導入していく方針だ。

 不動産業界で特に、熱心なのは大京だ。今年3月に完成した「ザ・ライオンズたまプラーザ 美しが丘」の駐車場の全区画(33台分)に充電設備を設置したほか、今年4月以降に着工したすべてのマンションを対象に、全駐車場の1割程度に充電設備を設置していく方針だ。加えて、過去に販売したマンションについても検討を進めている。既存のマンションは管理組合での合意が必要になるなど、設置のハードルが高いが、グループのマンション管理会社「大京アステージ」を通じ、横浜市内の数十物件のマンションから、充電設備を設置する候補を選定。年内に管理組合の同意を得られたマンションで、充電装置を導入する際に必要な管理組合の決議や工期、利用者への課金方法などを検証する計画だ。

 今や「環境」は企業のキーワード。EVは二酸化炭素や排気ガスをまったく出さないのが最大の特徴だ。ガソリンスタンドに通う必要もなく、利便性にも優れている。不動産業界がこれに乗らない手はない。EV対応は、マンションの新たな付加価値として不動産業界のトレンドとなりつつあるのである。

 各地の自治体も動き始めている。江東区では、今年8月にマンション建設のルールである「江東区マンション条例」の改正に伴い、今後、着工する新築マンションに対し、台数に占める1割以上にEV用充電設備の設置を求めるよう定めた。「強制力はないが、江東区の総世帯数の8割がマンション居住者ということもあり、極力、充電設備の設置をお願いしている」(温暖化対策課)。

 総世帯数の6割がマンションという神奈川県も、今年6月に伊藤忠商事や大京、パナソニック電工、東京電力など22社とともに、既存マンションや月極駐車場に充電設備の整備を目指す「基礎充電インフラ整備研究会」を開設し、来年3月までに普及策をまとめるという。

 マンション業界がこぞって導入を進めるEV対応型エコマンション。これに地方自治体のバックアップが加われば、今後、急増するのは必至。次なる“飯のタネ”をEVとする自動車業界にとって、強い追い風となりそうだ。

(「週刊ダイヤモンド」編集部 山本猛嗣)