うつ病患者が最初に受診するのは、精神科ではなく内科であり、「特に内科的病気はない」との診断をされた後、困り果てて受診すると考えられるのが鍼灸だ。病院を敬遠し、最初から鍼灸を頼る人も少なくない。

 うつ病に関心が高い内科医なら、内科的病気がない場合うつ病を疑い、精神症状の有無を聞きだそうとするだろう。うつ病の患者が、自分で精神症状を訴えてくることはほとんどないからだ。だが、多くの内科で、うつ病は見逃されている現実がある。

 鍼灸師の場合、脈診や視診など、東洋医学的な診察を通して、うつ病を見つける。

 脈診は、在宅医療の現場でも活用する医師が増えている技術で、精神状態から薬の服用の有無まで、かなり詳細に患者の状況を察知することができる。

 例えば、精神安定剤を服用している場合には、脈も不自然に落ち着いており、見た目の様子と脈の様子がアンバランスになる。また、早い脈と遅い脈が混在し不安定な時も、やはり心の病が疑われるのだという。

 無論、視診も重要で、心の病を抱える人は、目を閉じればまつ毛が震えており、舌を見れば、やはり震えているのが分かるという。こうした震えは気血両虚と呼ばれ、自律神経の失調のような状態であり、止めようとしても自分では止まらない。

 東洋医学は、西洋医学とは異なる様々な着眼点で、患者本人の気づかない、心の不調の証拠を拾い上げ、早期発見するのである。

「気の流れ」を改善
週1で2年かけて治す

 鍼灸の治療は、「気の流れが悪くなると病気になる」という東洋医学の考え方に則って行われる。

 そもそもうつは、気が鬱滞(うったい)するという意味もあり、気の流れが極端に滞っている状態がうつ病なのである。

 よって治療では、経絡という気が通る場所のどこが病んでいるのかを、脈診、視診、触診等で判断し、効果のあるツボに3ミリ(従来の鍼灸では1センチ)、極細の鍼を刺して10分ぐらい置いておく。すると気の流れが改善し、症状が徐々に消えて行く。

 うつ病で、鍼灸が特に苦手そうな人に対しては、治療のファーストステップとして刺さない鍼の「てい針」を行う。その理屈は、身体の表面に流れている気が悪いと、体内の気も上手く流れない。だから身体の表面の経絡を撫でて、表面に流れる気のめぐりをよくしてあげるというもの。まったく痛みがないため、痛くされたら2度と来なくなってしまうような、うつ病患者の治療に有効だ。

 ちなみに「徐々に」というスピード感は大切で、その場で気の流れをいきなりよくすると、逆に具合が悪くなるらしい。流れの勢いが過ぎて、めまいのようなことが起きる危険を避けるため、マイルドに、徐々に流して、翌朝ぐらいに気づかない程度のレベルで元気になっているよう調整して流す。

 それを週に1回程度続け、2年ほどかけて治すのが、鍼灸のうつ病治療だ。