キリンビールと東国原元知事の
意外な共通点

 ここに異色の事例を掲げ、その重要性を紹介しよう。
 異色の事例とは、「キリンビール高知支店」と「東国原元宮崎県知事」だ。
 一見、関連のなさそうな両者は、意外な共通点で一致する。
 それは、自らを中心として半径100キロ圏内をターゲットに絞り、大衆を惹きつけた名コピーライターであるということだ。
 まずはキリンビール高知支店から紹介しよう。

たっすいがはいかん
(出典)麒麟麦酒株式会社

「たっすいがはいかん?」
 日本語を母国語とするほとんどの日本人にとって意味不明であろう。
 わかる人は、きっと高知県人に違いない。
「たっすい」とは、高知弁で「薄い」とか「張り合いがない」という意味らしい。
 つまり、「薄く張り合いや手応えがないビールはダメだ!」と言っているのだ。
 言い換えると、「ガツン!とくるのがビールだろ」とも読み取れる。
 ちなみに全国展開されたキャッチコピーは、「ガツン!とくる。キリンラガービール」であったので、意味は符号する。

 ベストセラーとなっている田村潤著『キリンビール高知支店の奇跡』(講談社)では、ダメ支店(高知支店)からの逆転力が鮮やかに描かれている。
 キリンビールと言えば、かつてのビール業界王者であったが、アサヒビールに逆転されて低迷していた時期があった。現場主導でそれを打破したかを描いている。

 本稿では、そのくだりは割愛するが、もともと高地県人は酒好きとして有名である。
 1世帯あたり飲酒費用の統計を表す総務省家計調査の都道府県別飲酒費用ランキングで、高知県は全国第1位の実績がある。
 なんと全国平均の約2.2倍だ(出典:都道府県別統計とランキングで見る県民性サイト/「家計調査」総務省統計局)。

 ということは、キリンビール高知支店としては、地方ながら高知県という大きな市場でシェア1位を奪還することが求められていたのだ。
 そのためには、目のこえた県民を惹きつける強力なキャッチコピーが必要になる。
 さて、読者諸兄だったら、どんな戦略を講じるであろうか?
 キリンビール高知支店が考えに考えた戦略とキャッチコピーはこうだ。

[戦略]
酒好きで違いの分かる高知県民(ターゲット)×ガツンとくるビール(提供価値)」

[キャッチコピー]
「たっすいがは、いかん!」

 結果として、全国展開している「ガツン!とくる。キリンラガービール」を現地方言に変えたコピーで、現地シェア1位を奪還している。

 高知龍馬空港には大きなディスプレイ広告があり、県外からの観光客が興味深そうに写真を撮っている。
 普段お目にかからないコピーだからであろう。
 高知県民を惹きつけるだけでなく、県外からの観光客には、「あれ、どんな意味だろう?」を思わせ、振り向かせることにも成功しているのだ。