ベストセラー『統計学が最強の学問である』『統計学が最強の学問である[実践編]』の著者・西内 啓氏が、ついに待望の新刊『統計学が最強の学問である[ビジネス編]』を発表。ダイヤモンド・オンラインでは、この『ビジネス編』の一部を特別に無料公開。ビジネスパーソンに必要な「統計力」の磨き方について、ヒントをお伝えします。

「勉強ができれば仕事もできる」は3割正しい

従業員の価値は一般知能gのような「優秀か否か」というところだけで決まるのではなく、「状況とその人の特性の相性問題」と捉えるべき

 いわゆるIQやSPIの能力検査などに代表される一般認知能力が高い者は、採用後の業績もある程度高いと考えられる。このような状態を統計学では「一般認知能力と業績が相関する」と表現する。これはIQが、知能という見たり触れたりできない抽象的な概念を測定するためにどうやって作られたか、ということを知っていれば当たり前の話である。

 これは前作『統計学が最強の学問である[実践編]』の中でも述べたことであるが、IQという概念が生まれた背景には心理統計学者スピアマンの大きな貢献がある。彼は今から100年以上前である1904年の論文で、当時用いられていたさまざまな「知能を測れそうなもの」を片っ端から試し、それらが互いによく相関していることを発見した。その中には、古典のテスト、母国語である英語のテスト、外国語であるフランス語のテスト、数学テスト、反応テスト、音楽テストまで含まれる。

 そしてこれらの得点を組み合わせて新たな指標を作ると、元のテスト成績はおろかそれ以外の「常識力」だとか「教師からの評価」といったものともよく相関していることがわかった。この正体は(現代の脳科学をもってしても)よくわからないが、どのような観点で評価した「知能らしきもの」とも相関する指標のことをスピアマンは一般知能gと呼んだ。gとは「一般」という意味を示すgeneralの頭文字である。

 皆さんの母校にも、成績が良くて、絵画や音楽の才能があって、ついでに運動神経も良い、といった優等生が1人ぐらいはいただろう。こうした人物を見ると我々はしばしば「天は二物も三物も与えるのだなぁ」とため息をつきたくなるところだが、天はただ1つ彼に一般知能gのみを与えただけなのかもしれない。一般知能gがあれば、勉強するのに有利というだけでなく、絵や楽器演奏、スポーツのコツをつかむのにもある程度は役立つわけである。

 IQにしてもSPIにしても、一般認知能力というのは基本的にこの一般知能g、すなわち「だいたい何でも知的な活動とはよく相関する」指標となるよう注意深く設計されている。仕事というのも多分に知的な活動であるから、一般知能gが高ければ飲み込みが早かったり、効率化できたり、といったようにうまくこなせることは増える。

 シュミットとハンターの研究によれば、そうした一般認知能力の違いで説明できるのが業績全体の3割程度、というのがビジネスの面白いところだが、世の居酒屋でしばしば愚痴られているように「お勉強のできる高学歴な若者は頭でっかちでまったく仕事ができない」というわけでもないのである。

リーダーシップの研究者たちが発見した状況適合理論

 だが、だからと言って全ての会社がIQやSPIで高得点の若者ばかりを採用できるわけではない。そういった若者は有名大企業へ取られてしまう可能性が高いのだ。ではどうしよう、というところで役に立つのが経営学者、中でもリーダーシップ論の研究者が発見した、状況適合理論という考え方である。

 早い時期(1940年代頃)から、リーダーシップの研究者たちは、良いリーダーとそうでもないリーダーの違いはどこにあるか、という研究を行なっている。世の中にはウィンストン・チャーチル、マザー・テレサ、キング牧師、ジョン・F・ケネディなど、数多くの素晴らしいリーダーが存在しているが、彼ら研究者たちは、そうした人間のみに共通し、そうでない人間は持っていない特性を見つけられないか、チャレンジし続けたのである。

 だがそうした試みは比較的早い段階で行き詰まった。60年代後半に行なわれた20の研究成果の中で指摘された「良いリーダーの特徴」は全部で80近くにものぼる。一方で、多くの研究者たちが同じテーマに取り組んでいるはずなのに、その結果は一貫性がなくバラバラで、一言で言えば「良いリーダーの特徴とは何か、まとめてみるとよくわからない」という結論になってしまったのである。

 その後1990年頃までこうした取組みは続いたが、この分野の研究に1つのブレークスルーが生じたのは、心理学者たちによってパーソナリティ(性格)の理解が深まったことである。たとえば80年代には複数の心理学者によって今日ビッグファイブと呼ばれる5つの軸での性格特性の見方が確立した。

 ビッグファイブには、外向性(社交性)、調和性(人当たりの良さや気立ての良さ)、誠実性(責任感の強さや完璧主義)、感情の安定性(物事への動じなさや慎重さ)、経験への開放性(想像力や芸術的な感性)の5つが含まれる。スピアマンが、さまざまな「知能を測れそうなもの」が結局のところ1つの軸で評価されうると明らかにしたように、当時の心理学者たちは、さまざまな人間の性格に関する検査の結果が結局のところこの5つの軸にまとめられることを、因子分析などの統計手法によって明らかにしたのである。

 そうするとどうだろう。「良いリーダーの特徴」としてすでに指摘されていたもののうち、知性や職務知識といったものについては性格とは言えないが、向上心、実行力、自信といった特性については、それぞれ外向性や感情の安定性といったビッグファイブの要素に含めることができる。

 だが、もちろんこれだけで良いリーダーの特徴が完全に明らかになったわけではない。リーダーシップの研究者は徐々に現実はもっと複雑なものだと認めるようになった。そして彼らの多くは「良いリーダーとそうでもない者の違いはどこにあるか」ではなく、「どのような状況ではどのようなリーダーが機能するのか」という、状況とリーダーシップの相性問題に対して強い関心を向けるようになったのである。これが状況適合理論という考え方だ。状況適合理論は古くは1960年代から研究されていたが、現代でもよく扱われることが多い。

 状況適合理論と言ってもさまざまなものがあるが、たとえば比較的メジャーな状況適合理論の1つにはロバート・ハウスの開発したパス・ゴール理論と呼ばれるものがある。この名前は、良いリーダーがパス(道筋)を示してメンバーのゴール(業務の達成)を助ける、という考え方に由来している。

 パス・ゴール理論においてはリーダーは以下の4つに分類される。

1.指示型リーダー(やるべきタスクとスケジュールを整理し達成方法を具体的に指示)
2.支援型リーダー(親しみやすく部下の希望に配慮)
3.参加型リーダー(部下に相談し彼らの提案を活用して意思決定)
4.達成志向型リーダー(達成困難な目標を示し部下に全力を尽くすよう要求)

 そして、これらが「良いリーダー」となるか否かは状況次第だというのである。たとえば、新規事業開発のような、何をどこから手をつけていいかわからないような業務では、指示型リーダーが具体的にタスクを整理することで業務は捗り、部下の満足度は高い。

 しかしながらこうした業務で成果をあげた指示型リーダーが、コールセンターや経理処理などの定型的な業務を行なう部署に来ると、「細かいことまでいちいちうるさい」と部下の満足度と生産性を下げることにもなりかねない。こうした場では支援型リーダーに部下の気持ちをケアさせたほうが生産性が向上しやすい、というわけである。

 また同じように新規事業開発のような業務であったとしても、部下たちの能力が十分に高く、そのことに自負もあるようなメンバーであれば、やはり「細かいことまでいちいち指示されたくない」と生産性を下げてしまう。こうした場合はむしろ参加型のリーダーとして、部下たちの提案をうまくまとめられるほうが良いリーダー、ということになるのである。

 なお、このようなパス・ゴール理論から導かれる仮説は統計学的な実証研究によっても概ね肯定的に裏付けられている。

 この話を深掘りするといくらでも書くことはあるのだが、本題に戻ると、要するに従業員の価値は一般知能gのような「優秀か否か」というところだけで決まるのではなく、「状況とその人の特性の相性問題」と捉えるべきだというのが、リーダーシップの研究者たちが発見した状況適合理論の考え方である。

 これは管理職のリーダーシップに限らず、おそらくは全ての仕事について同じことが言えるのではないだろうか。営業マンに求められる能力とエンジニアに求められる能力が同じはずはない。また同じ営業であったとしても、一般的な商材を飛び込みで売る能力と、既存顧客の離反を防止する能力、それまでどこにも存在していなかった新ジャンルの商品が持つ価値を的確に理解して顧客の関心を引くプレゼンテーションをする能力のうち、どれが求められるのか、という点は異なるはずである。

 もちろん一般知能gが高ければ、ある程度どの仕事を任されても対応できるかもしれない。しかしその説明力はあくまでせいぜい3割程度なのである。残り7割のいくばくかは、本人の特性と求められる状況との相性によって左右されるはずなのだ。

メタアナリシスで見る「仕事は相性次第」

 これは単に理屈上の話というわけではない。先ほどシュミットとハンターによる、業績と関連する要因は何かというメタアナリシスの結果を紹介したが、これをこと営業マンの営業成績、という範囲に絞ってメタアナリシスを行なうとまったく異なる結果が出てくるのである。

図表2‐3はヴィンチュールらが1998年に公表した研究結果だが、見るとわかるように、先ほどの「全職種における(何かしらの)業績」という分析では大きな説明力を示していた一般認知能力が、営業成績とはほとんど関連していない。それどころか言語的知能テストの成績が高い者はむしろ営業成績が低い、という結果すら得られているのである。

 一方で、一般的にはほとんど業績と関連していなかった興味テストの結果が、営業マンに限定してみると最もよく(25%)その業績を説明していることがわかる。

 ビッグファイブの中では誠実性の得点が最も営業成績と関連しており、その下位項目である達成性もよく(17%)営業成績を説明する。つまり一般的に誠実かどうかという特性の中でも、目標や手がけた仕事を最後まで達成しようとするかどうかが重要だというのだ。さらに、当たり前と言えば当たり前だが、セールス能力テストの結果もよく(14%)実際の営業成績を説明するようである。

 このメタアナリシスは日本人の営業マンを対象にしたものではなく、また古いものでは1940年代の研究なども含まれる。そのため、これがそのまま、今の日本の営業組織において当てはまるのかどうか、私は知らない。だが仮にこうした状況で、いたずらに有名大卒でSPIの高い若者を採用し、営業マンとして配属する、というのはあまり賢明なやり方ではないだろう。彼らの多くはおそらく言語能力を含む一般認知能力は高いだろうが、そんなことよりも「営業という仕事に興味と適性があり、誠実で仕事を最後まで達成しようとする」人間かどうかが重要だというのだ。

 逆に、他のことをやらせれば優秀なはずなのに、営業という仕事にさしたる興味も適性もないためその能力を活用することができない若者というのも、ずいぶんともったいない話である。

「高学歴でハキハキ」ばかりではもったいない

 このように、大手企業が採用しない、高学歴でもSPIの高得点者でもない若者の中に、自分たちの会社の特定の業務だけで言えば誰よりも能力を発揮できる人がいるとは考えられないだろうか。あるいは長年非正規雇用の形態で働いていたところから転職を希望する者の中にも、特別な相性の良さを見せる人はいないだろうか?

 現在、多くの企業の採用方針は、意識してかせずか、「高学歴でSPIが高く、非構造化面接でハキハキと爽やかに受け答えする若者」というところに偏っている。地方に本社を置く中堅企業でも、「高学歴」の部分が「地元の学校で優秀な成績」に変わるぐらいのものである。これは一般知能gが高くなおかつ容姿や社会性に恵まれている者、ということで、採用後に何の仕事を任せるかの計画もなく、頭数を揃えるだけならそう間違った戦略ではないかもしれない。だが「もったいない」やり方でもある。

 もったいないというのは3つ理由がある。1つは採用する側として、どのような場でどのような仕事をしてもらいたいのか、ということをあらかじめ定め、特化する形であれば、もっと優秀な人間を採用できるはずである。たとえば非構造化面接の受け答えが下手だろうが、SPIで言語能力が低かろうが「この仕事で業績をあげるかどうかとほとんど関連がない」ということがわかっていたのだとすれば、逆にそれ以外の点についてはかなり有望かもしれない。

 もう1つは採用される側として、自分の強みを本当に活かした仕事にありつくことが現状難しく、「高学歴でハキハキ」ではないタイプにとって就職活動の手間がたいへんなものになるという点である。どれだけ業界・業種に対して知識やセンスを有していても、学外活動で成果をあげていても、いざ就職活動をしてみると「高学歴でハキハキ」ばかりが採用されがちなのである。その結果せっかく大きな価値を持っていた彼らの特性は、別の職場で無為に失われるかもしれない。

 一方、「高学歴でハキハキ」タイプにしても就活にこそ苦労しないかもしれないが、なまじ何でもできるだけに本来自分が活きる場とは違うところに配属されてしまうかもしれない。だが、世界的な調査会社であるギャラップ社に所属するハーターとアローラの報告によれば、自分の強みを活かせない不向きな仕事に就く者は、長時間の労働には耐えられず、一定時間を超えて働けば働くほどポジティブな感情を持ちにくくなるそうである。

 3つめは、これが社会全体の「最大多数の最大幸福」を損ねているという点である。全ての人間がお互い、相性の良い仕事にありつくことができていれば社会全体の生産性は上がり、企業の業績は伸び、また個人としても大きなストレスがかかることなく、より高い所得を望みやすくなるはずである。だが世の中で人が仕事にありつくにあたり、学歴や一般知能gが高いか低いか、というぐらいのことしか考えられていないようであればどうしてもミスマッチと非効率が生じるのだ。

 状況適合理論の考え方はこうしたリスクを示唆してくれるが、一方で、私たちが自分の会社でどのように従業員を採用したり配置したらいいか、ということを教えてくれるわけではない。

 もちろん先行研究としてどのような能力を持った人間がどのような職種で成功しやすいか、という研究はあるが、突き詰めると「それは状況次第かもしれない」というところを考慮しなければいけないのである。先行研究の多くはアメリカの大企業を中心に調査されており、果たして同じ職種の話であったとしても、それが皆さんの職場で成り立つのかどうかわからない。

 だが、だからこそ、皆さんは自分の会社で調査を行ない、分析をし、その結果どのような人事施策を取るべきかを考えるべきなのである。前章でも述べたように、経営学者は一般論としての世の真理を明らかにしようとするが、「今自社はどうすれば儲かるか」ということを明らかにすべきなのは他ならぬ皆さん自身なのである。

 それでは次節から、実際にどのような項目を調査し、どのように分析してどのようにアクションを打つべきか学んでいこう。