17歳の女子高生・児嶋アリサはアルバイトの帰り道、「哲学の道」で哲学者・ニーチェと出会って、哲学のことを考え始めます。
そしてお休みの土曜日、またまたやってきたニーチェは、自分の生い立ちのことを話しはじめたのでした。
ニーチェ、キルケゴール、サルトル、ショーペンハウアー、ハイデガー、ヤスパースなど、哲学の偉人たちがぞくぞくと現代的風貌となって京都に現れ、アリサに、“哲学する“とは何か、を教えていく感動の哲学エンタメ小説『ニーチェが京都にやってきて17歳の私に哲学のこと教えてくれた。』。今回は、先読み版の第14回めです。
えーと、ようするに腹黒いってことかな
「ニーチェってさ、どういう人生を歩んできたの?」
「私か?まあざっくり言えば牧師の家庭に生まれたのだが、まだ私が子どもの頃に父は亡くなってな。そこからは聖なる女性たちに育てられた」
「聖なる女性たち?」
「おばあさんと、母親、伯母とエリザベトという名の可愛い妹だ。私はずっと女性に囲まれて過ごしてきたのだ」
「なんかそのハーレム感、ライトノベルの主人公みたいだね。タイトルをつけるなら“俺の妹がこんなに可愛いワケなのだが”的な」
「ライトノベル?まあ女性に囲まれて暮らしてきたのだ。私は幼い頃から勉学に励み、二十四歳にして大学教授となった。
いわゆる天才街道まっしぐらだな。まあ勉学に励んだといっても、私はガリ勉というわけではなかった。酒も飲むし、服装もわりとお洒落であった」
「そうなんだ、天才街道ねえ。ニーチェの、その……哲学は自分で思いついたの?」
「自分で思いついたと聞かれれば、自分で思いついたのだが、ある人の影響を受けたとも言える」
「そうなんだ、そのある人って誰?」
「ショーペンハウアーという人物だ」
「ショーペンハウアー?」
「そうだ。私は普段は本を衝動買いしないのがモットーだが、ショーペンハウアーの本だけは衝動買いしてしまったのだ。懐かしいなあ」
「へーそうなんだ、どうして衝動買いしちゃったの?」
「そのくらい彼の思想に、衝撃を受けたのだ。ショーペンハウアーのことを、夢中で話し合った仲のいい友人もいた」
「哲学仲間みたいな感じ?」
「まあそうだな、哲学仲間というより音楽好き仲間という感じだな、ワーグナーという男なんだが」
「ワーグナー?なんか聞いたことあるような、ないような」
「ワーグナーは音楽家だ。結婚行進曲という曲を聞いたことがあるのではないだろうか」
「曲を聞けばわかるかも。その、ワーグナーって人と仲よかったんだね」
するとニーチェの顔が一瞬曇った。
あまり触れてほしくないのだろうか、ニーチェは一瞬、軽蔑するような目でこちらを見ると口ごもらせてしまった。