17歳の女子高生、アリサがひょんなことから現代に降り立った哲学者・ニーチェと出会い、人生について、将来について、そして「哲学すること」について学び、成長していくという異色の小説『ニーチェが京都にやってきて17歳の私に哲学のこと教えてくれた。』。その著者であり、哲学ナビゲーターとしても活躍する原田まりる氏と、『史上最強の哲学入門』著者の飲茶氏、そして『僕とツンデレとハイデガー』著者の堀田純司氏という3名の“哲学作家”の鼎談が実現。それぞれの著書について、そして哲学の魅力について、ざっくばらんに語っていただいた。(構成:伊藤理子 撮影・石郷友仁)
「哲学入門書あるある」を踏襲しない出だしに心を掴まれた
──原田さんの著書『ニーチェが京都にやってきて17歳の私に哲学のこと教えてくれた。』の中では、ニーチェは「オタクのスマホゲームの開発者」、キルケゴールは「ナルシストのカリスマ読者モデル」として描かれるなど、ユニークな設定が話題です。
堀田 哲学の本って、とかく難しく書かれているようなイメージですけれど、原田さんの本はすごく現代的に書かれているのが特徴ですよね。現代の普通の生活者の実感に基づいて、現代的にアップデートされているからとても生々しい。出だしなんて、主人公のアリサが振られたところから始まるでしょう?いきなり心を掴まれました。
原田 ありがとうございます!
飲茶 僕は、内容が「実存主義」に絞られていて、それをきちんと読者に伝わるように表現できているのがすごいなと。僕も哲学入門書を書いている人間なので、いろいろな哲学書を読んできたんですけれど、大体こういう入門書って、ソクラテスから始まりプラトンに行くっていう…
原田 ソクラテス始まり、ありますね。哲学入門書あるある、みたいな(笑)。
飲茶 あとはデカルト始まりもね。
一同 (笑)
飲茶 哲学入門書って、一人の哲学者を紹介して、そしてまた次の哲学者を紹介する…と言う感じで展開していくケースが多いんですけれど、その場合って一人ひとりの哲学者の紹介はわかりやすいんだけど頭に残らないんですよね。
一方で、このまりるさんの本は、一人の哲学者についてすべてを説明するのではなくて、「この哲学者の、この部分を読者に伝えたい!」という意思を明確に持っている。そこだけをきちんと抽出して主人公のアリサに伝え、アリサがそれを受け止めて少しずつ変わっていくという過程が描かれている。
哲学入門書を書いている側の視点から見れば、読者のことをしっかり考えて、計算しつくして書いているなと。いい仕事したな~という印象。
原田 ありがとうございます!どうですか?正直なところ。
飲茶 数あるニーチェ本の中で、1位じゃないですか。
原田 本当ですか!?今の言葉、いろいろなところで使わせてください(笑)。
堀田 原田さんは、尾崎豊がお好きで、大きく影響を受けたそうですね。僕、尾崎って最初の自己承認の希求者だったんじゃないかと思うんです。彼が訴えていたテーマって、この社会における自分の居場所のなさ、生きづらさだったと思うので。その影響って、この本に表れていたりしますか?
原田 そうですね。キルケゴールと少しシンクロする部分があるかなと思って、作中でキルケゴールのことを「デンマークの尾崎豊」とニーチェが呼ぶシーンを入れています。
堀田 だから、自分自身の存在に満足したテイで現れるサルトルを登場させたとき、主人公に「ちょっと気が合わないかも」と言わせたわけですか。
原田 そうです。サルトルは、キルケゴールよりも繊細じゃないというか、ちょっと気が強いといいますか…。「男気」みたいなものを感じていたので、レクサスに乗って長渕剛を聞いている設定にしました(笑)。女子高生である主人公のアリサからしたら「なんかちょっと怖いおじさん」ですよね。
堀田 主人公は高校生ですけれど、対象読者もそのあたりの層を意識されたんですか?
原田 いえ、逆に若い人ってそこまで哲学に興味を持っていないんじゃないかと思いますね。私自身は高校生の時に哲学に触れて感銘を受けましたし、私みたいな若い人もいるとは思うんですが、今の人はもうちょっと実利的な方向に目が向いているんじゃないかと思うんですよね。…それに、この本にはいろいろギャグを仕込んでいるんですが、それを見て「面白い」と感じてくださる方は40代だと思うんですよね。
堀田 デューク東郷とか平気で出てきますもんね(笑)。
飲茶 僕的にも懐かしいぐらいのネタが入っていますもんね。