「だっことおんぶ」というのは、各人の思い出があり、思い入れの強い分野だけに、それぞれの人の成功例だけが語られやすく、必ずしも正しいといえない“技”が広まっている面がある。災害時にも役立つ「だっことおんぶ」について、アウトドア流防災ガイド・あんどうりす氏が解説する。

災害時に役立つ「だっことおんぶ」の技術東京都臨海広域防災公園「そなエリア東京」の展示物より 東日本大震災の事例紹介

 今回は、だっことおんぶの話です。

 いかに素早く安全に赤ちゃんや子どもを避難させることができるか、だっこやおんぶは2003年に防災講座を実施した当初からの重要ポイントでもあったのですが、劇的に内容が進化したのは、2010年のことでした。

 2009年8月11日、静岡県御前崎沖で発生した駿河湾地震により、御前崎市で震度6弱、静岡市では震度5強の地震が起きました。

 静岡市に本拠地を置く、NPO法人「だっことおんぶの研究所」では、その時「ついに東海地震が来たのか?」と心がざわついたそうです。

 結局、警戒されてきた東海地震とは違うということにはなったのですが、研究所では、自分たちはだっこやおんぶのプロだから、すばやく避難するスキルがあるけれど、一般の人は地震や津波から避難できるのかということが議論されるようになりました。

 この、駿河湾地震では津波が観測されています。東海地震も津波の被害が想定されている地震です。静岡県では、津波到着時間が発災から4分という地区もあります。通常の避難のスピードでは間に合いません。津波からもすばやく避難できるだっことおんぶのスキルと防災のスキルをコラボさせるべく、研究所から私にオファーがあったのが、2010年でした。

 その後、2011年の2月まで、静岡県のふじのくに助成事業として、静岡市内はもちろん下田から浜松まで、静岡各地を一緒に何カ所もまわり、防災講演を実施してきました。

 2011年2月。そう、私たちはその1ケ月後に東日本大震災が起こるとは知らずに、津波対策を中心とした防災講座を静岡県周辺でだけ実施していたのです。

災害時に役立つ「だっことおんぶ」の技術2011年3月31日静岡県での防災講座の様子。参加希望者が多く2回開催した

 東日本大震災後、私はもう防災講座は辞めようと思っていました。救えなかった命のことを考えると、とてもできないと思っていました。津波からの素早い避難やだっこやおんぶの話していたのに、東北には全く行っていなかったことが辛くてたまりませんでした。

 でも、そんな私と違って、今だから伝えなければいけないと、2011年3月31日に、もう助成事業は終了しているのに、年度末に予算繰りをして、防災講座を実施したのが、同研究所所長の園田正世さんでした。