「日本の終身雇用・年功序列はもはや崩れ始めている――」

前回の連載でそう語った城繁幸氏とネットイヤーグループ石黒不二代社長。かつての“安定”を失い、さらに人口が減少し、グローバル企業との激しい競争下にある今、日本人が生き残るためには、各々が労働生産性を高めなければならない。しかし、日本人の労働生産性(社員1人当たりの付加価値創出額)は、主要先進7ヵ国の中で最下位というのが現状だ(7ヵ国は米、英、仏、独、伊、加、日。社会経済生産性本部2009年調査)。

なぜ、日本人はこれほどまでに生産性が低いのだろうか。そして、社員の生産性を高めるために企業はどうすべきか。人事コンサルタントである城氏と経営者である石黒社長がその命題に挑む。(聞き手/ダイヤモンド・オンライン 林恭子)

効率を追求したのは工場だけ?
生産性向上を意識してこなかった中高年

――日本の労働生産性は主要先進国の中で最下位だといわれています。かつては世界経済をリードしてきた日本が、世界的に見て「生産性が低い」のはなぜでしょうか。

石黒 生産性の高い・低いは、もちろん能力にもよるし、業務の得意不得意にもよります。しかし、日本が主要先進国で最下位と言われている生産性の低さは、能力の問題ではなく意識の低さが問題だと思います。生産性というのは、限られた時間で達成できる成果とか、時間当たりの効率という意味です。例えば、終身雇用、年功序列にどっぷりつかってきた方々は、「自分の生産性を上げる」という意識を持って仕事をしてきたかどうか疑問です。そして、それはある意味やむを得なかったともいえます。

 日本のグローバル企業の代表格といえばメーカーですが、その中で生産性を追求してきたのは工場だけ。工場は誤差や不良品率を下げるために、数値目標を持って生産プロセス改善の努力をしてきました。その一方で企画や営業といった工場以外のホワイトカラー部門は仕事は与えられるが、そのやり方に関してはずっと野放しにされてきました。つまり、そもそも企業が社内全体に「生産性」というメッセージや指標を出さなかったので、長い時間働くことが価値という間違った概念で会社が運営されてきたと思います。

じょう・しげゆき/人事コンサルティング会社「Joe's Labo」代表取締役。1973年山口県生まれ。東京大学法学部卒業後、富士通に入社。人事部門にて新人事制度導入直後からその運営に携わり、同社退社後 に刊行した『内側から見た富士通「成果主義」の崩壊』、『日本型「成果主義」の可能性』で話題に。『若者はなぜ3年で辞めるのか』では若者が職場で感じる閉塞感の原因を探り、大ベストセラーとなる。雇用問題 のスペシャリストとした各メディアで積極的な発言を続ける。最近の著書では『7割は課長にさえなれません―終身雇用の幻想』などがある。

 そのせいか、私が企業の人事制度に関するお仕事をさせていただくときに、職務内容や数値目標、グレード設定などを定めた新しい制度の話をすると、必ず50代の方から「そんな事いきなり言われてもできませんよ」みたいな事を普通に言われたりしますね。

石黒 今までそんな指標なんて全くなかったのに、急に職務内容や責任を定めた「職務記述書」を渡され、「今日から生産性を重視する」なんて言われたらびっくりしますよね(笑)。「生産性って何ですか」みたいな。ただ、全くそれに接してこなかった50代の方は厳しいですけれど、40代の方は少し触れ始めていますし、30代の人はその制度に結構、揉まれています。ですから年代の差というものも生まれていると思います。

 そうですね。今の35歳以下の社員はホワイトカラー層でも、多くが入社した時から「成果主義」が何らかの形で課されています。数値目標などが掲げられていて、上の世代より多少は意識が高いですよ。