こうしたなか、もし悪意のある第三者がハッキングで重要なデータを書き換えたりしたら…。電気や水道のインフラを突然ストップさせたり、自動車を暴走させたり、心臓ペースメーカーを誤作動させたりすることもできてしまいます。インターネットの世界がセキュア(安全)でなかったら、便利と思われていたIT技術は、たちまち人間の財産や生命にとって大きな脅威となるでしょう。

 つまり、これからの人類の発展は、インターネットを安全・安心に使うための技術、すなわちサイバーセキュリティなくしてはあり得ない、と言っても過言ではないのです。

サイバーセキュリティは
ネット社会と経済成長を加速させる

 サイバーセキュリティにかける費用は「ネガティブなコスト」と考えられがちですが、それは誤りです。この連載で何度も書いたとおり、自動車産業の発展にはブレーキ性能の向上が不可欠でした。安全に止まることが確約されなければ、高速交通網の整備もできなかったわけです。同様に、サイバーセキュリティの確立がなければインターネット社会の発展もあり得ません。

 そもそもインターネットの基礎となるコンピュータ端末間の通信技術は1969年にすでに誕生していました。しかし、インターネットが広く普及するためには、通信を暗号化する技術であるSSLやRSAなどのセキュリティ技術が登場する1990年代を待つ必要があったのです。

 サイバーセキュリティは決して足かせなどでなく、これこそがインターネット社会と経済成長を加速させる、唯一無二の重要な役割を担っているということを理解しておくべきです。

今のインターネットは
黎明期の自動車と同じで未成熟

 米国国務省の調査では、オンラインに不安を感じ、使用を控えている米国人の割合は2016年夏の時点で45%にも上るそうです。この状態は黎明期の自動車に似ています。

 人類初の自動車は、1769年にフランス軍人のキュニョーが開発した蒸気で動く砲車とされています。時速はわずか3キロ。そんなノロノロであるにもかかわらず、試運転中にパリ市内で史上初の自動車事故を起こしてしまいました。当時の人々は「あんな危ないものに誰が乗るのか」「手入れが大変そう」「怖い」「馬車のほうが便利だ」とあざ笑ったとか。