つややかなつくねバーグに卵焼き、タケノコとにんじんの煮物も見える。ごはんは、俵むすびが1つ。写真には写っていないが、お弁当の蓋にはスヌーピーのイラスト、箸箱はかわいらしいピンク色であった。
「ほんとうに、こんなお弁当でいいんですか?」
栃木県益子町にある鹿島神社の神主、岩松史恵さん(31)が心配そうにのぞき込む。弁当は、岩松さんの手作りだ。
「もちろん、これがいいんです」とシャッターを押す筆者。
これは、働く人がふだん食べているランチを追いかける企画なのだ。
平安時代の食事は1日2回
日本に「ひるめし」はなかった
ランチには、働く人の苦悩と歓びが詰まっている。そう考えるようになったのは、『日本人のひるめし』(酒井伸雄著、中公新書)を読んだことがきっかけだ。
本によると、日本にはもともと「ひるめし」という概念がなかった。平安時代、人々の食事は朝と夕の1日2回。それが、昼も含めた1日3食へと変わっていったのは、経済が発展し、サラリーマンが増え、文明が発達した結果、活動時間が長くなっていったからである。
鹿島神社が鎮座する益子町は、益子焼で有名な観光地だ。最寄りの駅は真岡鉄道の益子町駅だが、東京の都心からだとJR新宿駅から湘南新宿ラインに乗って宇都宮駅まで行き、そこからのんびりとバスに揺られながら行く方法もある。
バスが益子町に入ると、道路の両側に真新しいカフェや陶芸店が見えてくる。鹿島神社はそんな喧噪からは少し離れた、駅前通りに面している。
撮影の様子を眺めながら、宮司の小幡正之さんが言う。
「今日のお弁当は、だいぶ気合を入れて作ってきたみたいです」
宮司ほか2人の神主が勤務する、こじんまりした神社である。