成毛 群馬ですか。どうやってそこに歌舞伎が伝わったんでしょうね。

歌舞伎と地方の結びつき。失われた江戸文化が残る「地芝居」おくだ・けんたろう
歌舞伎ソムリエ。1965年名古屋市生まれ。大学入学で上京後、1年半のアメリカ生活を経て歌舞伎に熱中。歌舞伎座の立ち見席に通いつめ、イヤホンガイドの従業員を経て解説担当者となる。NHK教育テレビでの歌舞伎の入門番組や東工大世界文明センターなどで講師を歴任。ミラノ スカラ座の来日公演などではオペラの字幕も経験。http://okken.jp/ Photo by K.S.

おくだ 前に、江戸時代の歌舞伎のシーズンのお話をしましたよね。年明けに始まって5月末でいったん休んで、夏休み。秋に少し公演を行って、11月に契約更改相成った役者さんたちで顔見世興行をするというものです。

成毛 はい、ありましたね。それと関係があるんですか。

おくだ 今もそうですが、歌舞伎役者の一座というのは、小さな企業のようなものです。ですから、夏休みにはみんなで温泉に旅行に行くなんということがあります。福利厚生ですね。ただ、まるまる夏休みに遊んでいるのももったいないですし、また、その土地の有力者から上演を依頼されることもあるでしょう。

 すると、その地方の人たちが歌舞伎を見ることになります。そこで「歌舞伎、カッコいい」と思った人たちが、自分たちでも演じるようになる。それが、地芝居の始まりです。

豊作祈願の晴れ舞台
農作業の傍ら芸に励む

成毛 その当時、役者でない人が芝居をすることは許されていたんでしょうか。

おくだ 江戸時代、百姓と呼ばれていた人たちには興行としての芝居は許されていませんでした。ただ、彼らにもガス抜きは必要ですから、奉納や豊作祈願など特別な日には、自分たちのために演じることが許されました。その年に一度か二度のために、農作業の傍ら、芸に励んでいました。

成毛 どのあたりまで広まっていたんでしょう。

おくだ 案外と遠くまで行っています。先ほど挙げた群馬のほか、岐阜には非常に多いです。おそらく北限は、山形県酒田市です。酒田市の黒森地区には黒森歌舞伎というものが残っていて、山形県の民俗文化財に指定されています。

成毛 そうでしたか。(ググる)

 あら、かなりしっかりした演目に挑戦しているんですね。お話を伺いながら改めてネットで調べてみると「地芝居ポータル」という立派なサイトを見つけました。北海道から九州まで、子ども歌舞伎も含めてじつに多くの地芝居が公演されていることに驚きました。数えてみると関東甲信越だけで40以上の地域で開催されているんですね。中にはほぼ毎月定期公演を行っている地域もある。すごいですねえ。