「よそ者」はイノベーションを起こしやすい

茂木 日本ではスタートアップを大企業が買収するということも、そんなにないですよね。これって、日本の雇用の正規社員と非正規社員の問題にも通じると思うんです。自社開発主義というか、正社員は仲間だけど、非正規社員は仲間じゃない、みたいな意識があるような気がして。プロパー以外の優秀な人をうまく取り入れていかないと、イノベーションは起きないでしょう。林さんは、ソフトバンクではどんな雇用形態だったんですか?

 正社員です。

茂木 何年いらっしゃったんですか?

 4年くらいですね。

茂木 4年しかいない正社員、というのもおもしろい(笑)。

 最初はまわりに「どこからきた誰なの?」と思われていたでしょうね(笑)。

茂木 おそらく、林さんが外から来た人だというのは、Pepperプロジェクト成功の要因の一つだと思いますよ。

茂木健一郎×林要 特別対談(上)<br />これから活躍するのは<br />「おっちょこちょい」である理由林要(はやし・かなめ)
1973年愛知県生まれ。東京都立科学技術大学(現・首都大学東京)に進学し、航空部で「ものづくり」と「空を飛ぶこと」に魅せられる。当時、躍進めざましいソフトバンクの採用試験を受けるも不採用。東京都立科学技術大学大学院修士課程修了後トヨタに入社し、同社初のスーパーカー「レクサスLFA」の開発プロジェクトを経て、トヨタF1の開発スタッフに抜擢され渡欧。帰国後、トヨタ本社で量販車開発のマネジメントを担当する。そのころスタートした孫正義氏の後継者育成機関である「ソフトバンクアカデミア」に参加。孫氏の「人と心を通わせる人型ロボットを普及させる」という強い信念に共感。2012年、人型ロボットの市販化というゼロイチに挑戦すべくソフトバンクに入社、開発リーダーとして活躍。開発したPepperは、現在のロボットブームの発端となった。同年9月、独立のためにソフトバンクを退社。同年11月にロボット・ベンチャー「GROOVE X」を設立。著書に『ゼロイチ』(ダイヤモンド社)

 そう考えたことはありませんでしたが、たしかに社内の人材でやろうとするとうまくいかなかったかもしれません。というのも、社内でプロジェクトの責任者になるくらいの人は、それまでにソフトバンク内ですごく実績を積んできた人なんです。失敗したら、これまで積み上げたものを失うことになるかもしれない。そう考えたらいろいろな人の意見を聞きすぎて、尖ったものは作れなかったかもしれません。

茂木 あんなユニークなロボットはできなかったでしょう。

 もっとすごいものをつくったかもしれませんが(笑)。でも、Pepperの開発って、本当に答えのないことばかりだったんです。だから、「ここじゃないかな」と当たりをつけて、やってみるという方法をとるしかなかった。私は、失敗したら責任取ればいいやと思っていましたけど、そういう賭けのようなやり方は、社内でコツコツやってきた人には難しいとは思います。

 それで、先ほどの、大企業はスタートアップを買収したほうがいいんじゃないか、という話に戻りたいんですが、アメリカの西海岸の大企業がスタートアップを買収して育てられるのは、ひとつ重要な条件があると思うんです。そもそも社内にスタートアップ出身の人がいる。これがないと、うまくいかない。

茂木 ああ、経験した人がいるんだ。

 スタートアップの多くは、買収された時は社内の仕組みなどはボロボロだと思います。買われた先の社員の方々が、そのボロボロさに敬意を払えるかどうか。それが、大企業がスタートアップを買収してうまく育てられるかどうかのポイントだと思うんです。だから、スタートアップ経験者が社内にいるか、あるいは、せめて社内でゼロイチ・プロジェクトを経験してきた人がいなければならない。

茂木 なるほど。買収したスタートアップに敬意を払わず、なんでもどんどん大企業のやり方を押し付けたらうまくいかないでしょうね。そのためには、スタートアップがどのようなものかを実体験としてわかっている人が、大企業のなかにいなければならない。新卒で入社した人が大半、という組織ではなかなかスタートアップとうまく融合していけないかもしれませんね。そういう意味では、もっと雇用の流動性を高めることも、日本でイノベーションを生み出すうえで重要だということになりますね。

(次回へ続く)