「お言葉」は保守派への強いメッセージ(2)
「摂政官導入は、明治憲法下の天皇への復古につながる」

 その上、天皇陛下は、「摂政の制度利用や公務の負担軽減では務めを果たせない」ということも明確に言い、生前退位の必要性を訴えている。これは、さまざまな識者が一斉に強調したような「陛下の責任感」というような単純な話ではないように思う。

 天皇陛下は、象徴天皇としての公務の範囲を拡大してきたのはよく知られている。例えば、地震などの自然災害が生じた場合、陛下は、ややカジュアルな格好で被災地を訪れ、避難所に脚を踏み入れ、靴を脱いで、跪き、被災者たちに親しげに声をかけてきた。また、陛下は、第二次大戦で日本軍が激戦を繰り広げた海外の戦地を何度も訪問している。

 このような「国民と同じ目線を持ち行動する」象徴天皇の在り方は、圧倒的な威厳とカリスマ性があった昭和天皇とは全く異なるスタイルを確立している。そして、その姿が、多くの国民から支持されてきたのは間違いない。

 しかし、保守派はこの象徴天皇の在り方を苦々しく考えてきた。「天皇を国家元首とする」という憲法改正を主張してきた保守派は、天皇が威厳を保ち、「奥の院」にいて国民の前に姿を現さない、明治憲法の時代への復古を望んでいるからだ。

 保守派は、天皇陛下が生前退位の意向をお持ちだという情報が流れるや否や、「公務を減らせば済む話」「摂政で十分対応できる」と一斉に主張した。更に、「天皇が勝手に生前退位の希望を口にするのは、憲法違反だ」という声も上がり、遂には「生前退位は国体の破壊につながる」という強烈な批判の言葉を放つ者まで出てきた。

 保守派の強い主張を目の当たりにして、天皇陛下は、摂政官を置いたら、皇太子殿下に公務が移管される過程で、殿下が自らの意思で公務を考える余地も持てず、大幅に公務が削減されるかもしれないと考えたかもしれない。あえて極言すれば、陛下は「摂政官を置くことこそ、天皇の政治利用につながるではないか」と、保守派に反論したのだという解釈も成り立つように思う。

 いずれにせよ、天皇陛下の意向に沿って改革を進めることになると、皇室典範を改正する大規模な改革が必要になってくる。そして、皇室典範改正の議論が始まれば、天皇の意向が、「象徴天皇制などを定めた憲法の条文がそのままである」ことが前提となるはずである。そのことは、天皇に関する条文だけではなく、「9条」など保守派が変えたがっている憲法改正の動きにクギを刺すことにつながってしまうのだ。

 そのことを恐れた安倍政権とそれを支持するとされる保守派が、議論を「天皇の公務負担軽減」に絞り、「一代限りの特別法制定」で対応することで、皇室典範改正など抜本的な改革の議論を封じようとするのは、当然だといえるだろう。