経済協力は「草の根レベル」からの
日露の信頼関係構築を目指すべきだ

 5月の日露首脳会談で合意していたエネルギーや医療・保健、極東開発など8項目の「経済協力プラン」については、官民合わせて80件の共同プロジェクトを進めることで合意した。エネルギー分野では、石油や天然ガスなどロシアの地下資源開発での協力や、天然ガス・石油開発「サハリン2」のLNG生産設備増強、丸紅や国際石油開発帝石などがロシア国営石油会社とサハリン沖の炭化水素探査などが盛り込まれた。また、医療・保険分野では、三井物産が製薬大手のアール・ファーム社と資本提携に関わる覚書を交わした。日本側による投融資額は3000億円規模になり、過去最大規模の対ロシア経済協力である。

 この連載では、8項目の経済協力プランが、サハリン州政府の「発展計画2025」という経済発展計画と、内容的に近いことに着目していた(第90回・p2)。この経済協力は、日本が一方的に提案したものではなく、ロシアと十分に内容を擦り合わせたものだ。その実現は、ロシアに大きな利益がある。確かにプーチン大統領が発言したように、「信頼関係の醸成に役立つ」ものだろう。

 ただし、ロシアとの経済関係の強化を、北方領土問題などの交渉力強化につなげたいならば、強く認識しておくべきことがある。それは、「ロシア経済は資源輸出への依存度が高く、資源価格の変化に対して脆弱性が高い」ということだ。

 ソビエト連邦崩壊の一因として、CIAとサウジアラビアによる石油価格の操作でソ連経済が崩壊したという指摘がある(江波戸哲夫・竹谷仁宏「ドルがなくなる日」主婦の友新書)。ソ連邦崩壊後のロシアも、何度も石油価格の下落による経済危機に見舞われた。資源依存の経済の脆弱性こそ、ロシアが最も頭を痛めている問題だということだ(第77回・p5)。

 資源に頼らない産業の多角化は、ロシアにとって最重要課題である。現状、冬季になると豪雪等で、極端に稼働率が落ちてしまうという問題がある。筆者がフィールドワークしたサハリン州には、ほとんど製造業がない。ただし、終戦までの日本統治時代には、製紙工場などが稼働していた。日本の製造業の技術や、工場運営のノウハウがあれば、冬季でも生産性を落とさず、工場を稼働することができるだろう。ロシアには、「日本企業との深い付き合いは、ロシアの製造業大国への近道だ」との強い期待がある。日本はこれに応えるべきだろう。

 今回の合意には、医療・保健での協力が入っているが、的を射たものだと考える。この連載では、サハリン州が資源輸出で大きな利益を得ていながら、それが住民生活に還元できていないことを指摘してきた(第114回)。日本は「資源を獲得するために、資源開発を支援したり、資源ビジネスに参画する」という常識的な考え方を超えた協力をすべきだ。社会保障は未整備で、道路、鉄道、住宅などインフラは古いままだ。住民は「水道だけはいい。日本が80年前に作ったものだから」などと言っている状態だ。