「1月までは『人手不足を何とかしろ』と言われて人集めに奔走していたのに、今度はいきなり『余剰人員の首を切れ』といってきた。本社は一体何を考えているんだ」

 日本郵便の朝令暮改の人員政策に現場の幹部は呆れ返っている。

 さる2月中旬、一部の全国紙が「日本郵便、大量雇い止めへ」と、16万人にのぼる日本郵便の非正規雇用社員の雇い止めの可能性を報じたことで、現場に動揺が走っている。実際、すでに2月になってからは非正規雇用社員に対する一斉面接がスタートしており、配置転換や労働時間の短縮などが打診されていたことから、非正規雇用社員は疑心暗鬼に陥っていた。

 日本郵便は対外的には、「余剰人員の適正な配置のためのヒアリングを行っている」としてはいるが、人員削減自体については何もコメントしていない。

 だが、現実には、日本郵便の各支社、支店では大量の雇い止めに向けた準備が始まっている。2月にはいるまで、現場の人手不足を補うため、職員募集に奔走してきた人事担当は一転、どの職員の首を切るかの選定作業に大わらわだ。

 下の書類は、日本郵便の人事部門が全国約2000の支社支店に配布した、“首切りマニュアル”だ。「23年4月からの要員配置の適正化に向けて」と題してはいるものの、中身は簡単に言えば、4月までに、“余剰人員”を炙り出し、4月までに雇い止めにしようと言うことだ。

 すでに1月末時点で、マニュアルの配布は完了し、4月1日からの新体制、移行へ向けた3月末の大量雇い止めに向けて2月から“準備”をスタートしている。

 というのも、雇い止め、つまり期間雇用社員の契約を更新しない場合でも、厚生労働省は、1ヶ月前に雇い止めを通告し、その理由の告知などが望ましいという基準を定めている。逆算すれば、4月の新体制スタートのためには、2月末には雇い止め対象者を選び、通告しなければ間に合わない。

 しかも「厳重取扱注意」の文字が躍るマニュアルの内容は非正規雇用者には厳しいものだ。まず、配置転換や勤務時間の短縮があることを周知、つまり望まない仕事をさせ、手取り給与はさらに減ることを通告した上で、希望退職を勧奨する。

 また配置転換や勤務時間退職を望まない者には雇い止めとなる可能性を通告するという仕組みである。マニュアルには「適正なスキル評価」という言葉が謳われているが、現場の幹部は「マニュアルを見れば、賃金が高かったり、勤務時間の長いベテランを狙い撃ちにしているのは確実。そんなことをしたら、現場が回らなくなる」と悲鳴を上げる。

 一般に「雇い止め」というと、短期の期間雇用社員の契約を更新しないというイメージでとらえがちだが、日本郵便では、旧郵政時代から非正規雇用社員は期間雇用で、半年~1年ごとに契約更新するかたちで長期雇用を続けて来た。10年、20年勤務のベテランの非正規雇用者は少なくないからだ。

 全国2000支店で1人雇い止めすれば2千人、2人なら4千人がいなくなる計算で、16万人いる非正規雇用者は戦々恐々だ。日本郵便は非正規雇用削減目標第一弾として、支店ごとに「非正規雇用人件費削減×千万」のかたちで、目標を課しており、大量雇い止めが始まるのは確実だ。

 昨年6500人もの非正規雇用社員を正社員化かと思ったら、今度はいきなり大量解雇なのだから、非正規雇用社員もたまったものではない。日本郵便は通期で1200億円近い赤字決算が見込まれており、当面は回復の見込みもない。日本郵便の大量解雇時代の幕開けである。

(「週刊ダイヤモンド」編集部 小出康成)