中東産油国の緊迫化を受けて、ガソリンスタンドのガソリン価格が上昇している。日本の取引の指標となるドバイ原油は2008年9月以来、2年5ヵ月ぶりに1バレル110ドルを超えた。石油元売り各社はスタンドへの卸価格を1リットル約3.5円引き上げた。

 原油高でもスタンド業者にとって値上げは容易ではない。競合店との見合いから採算割れ覚悟で安値の勝負をかけるときもある。これが市況の混乱につながっている。とはいえ異例の元売りの値上げ幅に、スタンドのガソリン価格も1リットル140円台が射程に入っている。

 だが、スタンドの混乱はこれだけで収まりそうもない。じつは1リットル160円まで値が上がると自動的に25.1円下がる制度が、昨年4月からすでに始まっている。

 制度の仕組みはこうだ。

 総務省の小売物価統計調査において、ガソリンの平均価格が3ヵ月連続で1リットル160円を超えると、それをトリガー(引き金)として課税停止となり、25.1円が減税される。反対に3ヵ月連続で130円を下回った場合は元どおりになる。160円から135円に自動的に下落し、さらに市場の影響で5円落ちれば再び150円台に値が戻る。

 なんともお騒がせな制度だが、これはもともと、民主党政権がマニフェストの暫定税率廃止をできずに取り入れたもの。期限は「当面の間」と定められ、見直しの時期は明らかでない。

 問題はトリガーとなる1リットル160円超えが、ここにきて現実味を帯びつつある点だ。

 上図を見ていただきたい。今年1月のガソリン価格の構造を踏まえると、原油輸入価格(運賃・保険料込み)が1バレル136ドル以上で制度は発動される。為替にも注意したい。08年に比べ円高が進行しているため、仮に1ドル90円まで円安が進めば、1バレル125ドルでも発動の目安となる。

 発動は事前告知されるものの、混乱は避けられない。50リットルの給油で1255円の差が出るとなれば、発動を見越した買い控えや買いだめの動きが出るのは必至だ。スタンドの在庫がなくなる恐れもある。暫定税率の一時失効のときのように、値下げや値上げのタイミングを競う業者間バトルも勃発しそうだ。

 国や自治体では税収の問題が顕著になる。課税停止の対象となるガソリン税(揮発油税と地方揮発油税)は年間約3兆円に上る大きな財源だ。仮に4ヵ月間にわたり一部減税となれば、11年度予算額を基にした週刊ダイヤモンド推計では約4500億円の大幅な減収となる。

 日本エネルギー経済研究所石油情報センターの前川忠研究理事が指摘するように「販売業者の混乱を招くだけ」というトリガー条項。

 混乱の矛先は業者のみならず政治にも向けられているのだ。

(「週刊ダイヤモンド」編集部 小島健志)

週刊ダイヤモンド