安倍政権の懐古趣味的な性格が最も現れたのが、再三に渡って繰り返された「企業への賃上げ要請」だろう。安倍首相や麻生太郎副総理・財務相ら経済閣僚が、再三に渡って企業に「賃上げ」を要請し、事実上産業界に「圧力」をかけてきたことだ。

 この連載では、安倍政権の産業界に対する度重なる賃上げの「圧力」と、首相の祖父・岸信介元首相が商工省のエリート官僚時代に実行した「国家総動員体制」との類似性を指摘してきた(第80回・p6)。国家総動員体制下では、軍需品の生産を優先するために、企業の利潤追求が「悪」であると否定された。それは、企業が内部留保をため込み過ぎているとして、利益を上げた分は「賃上げ」すべしとする、安倍政権の強硬姿勢とよく似ているのだ。

「同一労働同一賃金」は格差拡大への嫌悪と
高度経済成長期への回帰願望に支持される

 そして、「働き方改革」である。この改革には、電通の新人社員の自殺で社会問題となった「長時間労働」の是正や、「女性の社会進出」を促進する政策などが含まれ、その部分では世界の水準から遅れた部分を取り戻そうとするものと評価できる。

 一方、「正社員」と「非正規労働者」の不合理な待遇の格差をなくす「同一労働同一賃金」だが、それが非正規労働者を正社員に近づける方向性で行われるならば、「誰もが正社員だった高度成長期に戻りたい」という、国民の懐古趣味的な感情に訴えるものとなってしまう。

「同一労働同一賃金」は与党のみならず、民進党、共産党など野党や労働組合も支持している。その支持の構図も「懐古趣味的」だ。なぜなら、80年代以降続いてきた「新自由主義的改革」に対する嫌悪が背景にあるからである。

 日本で派遣労働者が増えたのは、バブル経済の崩壊とグローバリゼーションによる「失われた20年」と呼ばれる長期的な経済停滞に対して、国内の正社員の年功序列・終身雇用の「日本型雇用システム」を頑なに守ろうとしたことで起こった。

 グローバリゼーションによって、日本企業は国際競争力を維持するために多国籍化し、開発途上国の安いコストで生産する体制を作ったが、一方で国内の労働需要は激減してしまった。これに対して、日本企業は既存社員の雇用維持に努め、新規採用を抑制し、派遣や請負等の「非正規労働者」を増加させた。

 その結果、若年層の多くが新卒で正社員として採用されず非正規労働者となった。そして、既存社員の年功序列・終身雇用が守られる一方で、非正規労働者として社会人をスタートした若年層が、その後に正社員の職を得ることは極めて難しくなった。正社員と非正規労働者の格差は固定されることとなったのだ(連載第47回)。