アルファ碁の打ち手の独創性

 アルファ碁も含めて、従来の囲碁AIには共通の弱点がありました。大橋拓文六段の観戦記に曰く、

・長手順の読み(死活(*2)、攻め合い、正確さが必要)
・複雑な手順(左右両側から絡めるようなもの)
・コウ(*3)(無限循環に陥りがち)

 などです。しかし新生アルファ碁は、それらを克服しただけでなく、さらに多くの「新手」を繰り出していました。それらはトップ棋士たちにも「悪手」と映るほどの常識外れの斬新な手であったと言います。

人間では理解できない手が30手以内に出てくる。しかし、後にそれが良い場所になってくる不思議、マジックのようだった」(J-CASTニュースでの大橋六段のコメント)

 アルファ碁はまずヒトから学びました。過去の思索の結晶である棋譜を3000万局分読み込み、それを手本としました。しかしその後は独学です。自らを相手とした強化学習で鍛え上げ、人智の及ばぬ領域に到達しました。たった1年余りで。

「私たちが永遠に変わらないと考えていた囲碁の真理が破壊された」(中国の古力九段のTwitterコメント)のです。

リバースエンジニアとしての人類?

 「創りだしてしまった神」とわれわれ人類はどう付き合えば良いのでしょうか?

 2008年にモンテカルロ法の囲碁AI「Crazy Stone」と対戦した王銘エン九段は、その真の潜在能力を見抜いたひとりでした。関係者みなが囲碁AIの弱点をあげつらう中、彼は言い切りました。

「運動能力という点では、モンテカルロ囲碁は人間とぜんぜん違う原理の筋肉で動いている」「その潜在能力はすでに人間を遥かにしのいでいるかもしれない」

「モンテカルロ囲碁は柔軟だ」「本気で研究され出して2、3年にもかかわらず、もうこんなところまできている」「プロレベルまで10年以内で来るのではないか」

 まさに慧眼といえるでしょう。そして彼はその先についても語っています。

「モンテカルロ囲碁恐るべしと、身構えなくてもいい」「敵はしょせん完璧ではなく、つねにリベンジ可能」「そのときこそ、碁打ちが神の道を目指す本当の旅が始まる

 アルファ碁に、「真理の探究」という概念は(今のところ)ありません。しかし、AIが人間の常識を超えた新手を示してくれるからこそ、ヒトはそれを辿って、囲碁の真理を解き明かせるのでしょう。一種のリバースエンジニアリングです。

*2 打たれた石が「取られない生きた石」なのか「取られる死んだ石」なのかの判断。
*3 互いが交互に相手の石を取り、無限に続きうる形。さまざまなルールによって、無限反復は禁止されている。