「不正はなかった」のに
「処分は妥当」はありえない

 昨年12月27日、将棋のプロ棋士・三浦弘之九段が対局中にスマートフォンを使用する不正を行ったのではないかという、いわゆる「スマホ疑惑」に関して、将棋連盟が調査を委嘱した第三者委員会は、「三浦九段が不正を行ったという証拠はない」との調査結果を発表した。同委員会は、同時に、竜王戦(読売新聞社主催)の挑戦手合いをはじめとする複数の公式戦について三浦九段を年末まで出場停止とした日本将棋連盟の処置は妥当だったとの見解も公表した。

 三浦九段及び家族をはじめとする関係者が被った名誉・経済・精神の被害は莫大なものだ。なにはともあれ、同九段の名誉の回復についてやっと正しい初手が指されたことは、よいことだった。その他の被害に関する補償についても、将棋連盟は最大限の誠意を示すべきだろう(金銭に換算するなら一億円でも安いと筆者は考える)。

 さて、第三者委員会の報告書だが、「三浦九段に不正の証拠なし」と述べることと、それでも「三浦九段の出場停止決定が妥当だ」と述べることが、両立するようには到底思えない。谷川浩司・日本将棋連盟会長は、竜王戦挑戦手合いの最中に問題が表面化しかねなかったことや週刊誌に記事が出そうであったことなどを当時の判断材料としてあげているが、公正を第一とすべき勝負の世界で、例えばその竜王戦は不可解な形で挑戦者が変わったのだから、「処分」と言おうが「処置」と言おうが、少しも妥当でなどなかった。

 日本将棋連盟のケースに限らないが、不祥事の当事者が任命する第三者委員会の納得性の乏しさをあらためて印象づけた(今回の一連の事態は日本将棋連盟も一方の被告である)。

 率直に言って、問題の、取り上げ方も、その後の措置も、決着させようとしている方法も、日本将棋連盟は「失敗した」。