森稔社長(左)から6月に社長を継承する辻慎吾副社長(右)。だが、依然森次期会長が経営の第一線に立つ体制に変更はなさそうだ
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「森ビルはすでに社会的存在であり、経営者は森家出身者である必要はない。辻(慎吾副社長)君は社内で後継者の条件を最も満たしている人物であり、社長にふさわしい」(森稔・森ビル社長)

 3月8日、森ビルは、森社長が今年6月の株主総会で代表権を持つ会長に就任し、辻副社長が社長に就任する人事を発表した。創業家以外からは初の社長就任となる。

 辻副社長は、再開発により街の集客力を上げるタウンマネジメント業務で実績を上げ、森社長の目にとまった。

 1年半前に「社長になる準備を進めておいてほしいと森社長から告げられていた」(辻副社長)という。その後副社長に抜てきされ、経営企画室長として中期経営計画の策定に当たったほか、営業全般を手がけてきた経歴を持つ。

 長年最右翼とされてきた、森社長の娘婿の森浩生専務ではなく、辻副社長が後継となったことで、一見「脱創業家」となったかに見える今回の人事。

 だが森ビルの目前には“創業家の個人信用”をもって直面せざるをえない、財務上の難局が差し迫っている。

 まず2008年に金融機関などを主な引き受け手として発行した優先株1100億円だ。これが資本部分に組み込まれたことで、森ビルの自己資本比率は発行前の07年3月期の15%から10年9月末には24.9%と改善している。

 じつは、この優先株は13年8月以降配当率が上がる条項がついており、これに代わる新たな資金調達ができなければ、資本コストは大きく上がってしまう。さらに、現在企業会計基準委員会で検討が進められている、開発型SPC(特別目的会社)の連結化の影響も大きいと予想される。早ければ13年3月期から全面適用となるが、森ビルは「非連結のSPC分の負債が、少なくとも800億円以上あるはず」(金融関係者)と見られているのだ。

 これが連結されると、10年9月末時点で7061億円に達している森ビルの有利子負債はさらにふくらむことになる。

 会長就任後は文化活動や財界活動など、対外的な活動に注力するとしている森社長。だが、これらの財務的な難局を前にして、経営から全面的に退くことは、現実問題としてありえないだろう。

「今後組織改革や金融機関との交渉等は辻君に任せたい」としている森社長だが、同時に「森家は今後も“保証人”であり続け、経営と一体だ」とも言っている。

「現在の森ビルへの金融機関の融資態度は、森社長個人の経営者としての信用力で持っているようなもの」(不動産業界関係者)との見方は多い。

 本人、そして森ビルが好むと好まざるとにかかわらず、森社長は会長就任後も、経営の第一線で引き続き影響力を持つ“保証人”であり続けざるをえないだろう。

(「週刊ダイヤモンド」編集部 鈴木洋子)

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