もう一つ心動かされたのは、長丁場のインタビューの翌朝行われた基調講演です。これが本当にすばらしかった。講演のテーマは組織の本質が変わったというものでした。そのなかで、専門書図書館が社会でいかなる位置を占めうるかに話が及びました。図書館司書もまた、社会的な目的に対してどんな価値を実現できるかを自ら考える必要があるとドラッカーさんは述べました。

 図書館司書はいわゆる生計の資を超えた仕事たりうるともいっていたのを思い出します。確かにこの仕事はNPOのボランティアとしても、個々の価値観や関心にもとづき自ら貢献する組織を選べる利点があります。当時にして92歳だったということを考えると本当に驚きです。

人生を変えた言葉
成功後も幸福であり続けたのは後生に何かを残そうとした人たちだった

――ドラッカーの言葉で人生を変えたものは何ですか。

 2005年クレアモントでのことです。「私の会ってきた方で、成功後も幸福であり続けた人々を思い起こすと、みな後世に何かを残そうとした人たちだったように思う。病院、会社、何でもいい。彼らにとってだいじなのは金ではなく、成果だった。成果は本人が瞑目した後も残る」といわれました。

 人生を変えた言葉として僕はこれを挙げたいと思います。成果に目を向けることで、運命の手綱をも握れる。大切なのは二つです。まず、できないことではなく、できることに目を向けること、そして、弱みにではなく強みの上に人生を築き上げることです。

――忘れがたい素敵な思い出などはありましたか。

 インタビューでは、プロとして最高の話を聞かせてくださったこと、同時に品格と優美さを兼備されていたことです。ゆっくりと話を始められたかと思うと、次第にさまざまなテーマに話が及び、最後にはぴたりと僕の聞きたいポイントを捉えていました。そこには人としての優しさ、ゆったりとした心の余裕がありました。

 そもそも最初のインタビューの時、僕が心揺さぶられたのにはいくつかの理由があります。まず、ドラッカーさんはテーマである専門図書館についてきわめて緻密かつ詳細に調べていました。加えてコンサルティングなどで自分がいかに専門図書館のお世話になるかも体験にもとづいて話してくれました。そこから、組織にとって意味のあること、そして自らが個として意味のあることの両面から人生を考える大切さを述べていました。あの時すでに二つ以上の人生をあえて生きよとドラッカーさんは教えてくれていたのでした。