もう一つ、膝を交えて話をするなかで、本当の意味での学びとはこういうことなのかと素直に実感できたことがあります。特にご自宅でお話を伺った折などがそうでした。
最後のインタビューは2005年の亡くなる7カ月前に映像に収められたものです。本を執筆していることはドラッカーさんにはお話ししておりました。それもあって、かなり体調がすぐれなかったにもかかわらず、僕のために何度もわざわざ貴重な時間を割いてくださいました。本当に感激しました。
一人ひとりに役立つドラッカー
個として成長する方法
――著書の原題は「人生を多面化する」といった意味ですね。どのような思いで付けたものですか。
ドラッカーさん自身の言葉からとりました。ドラッカー・スクール(クレアモント大学院大学)でビデオ・インタビューをさせていただいたときのものです(http://www.youtube.com/watch?v=DbM7gU6Y5LA)。2005年の4月でしたから、ドラッカーさんが亡くなる半年あまり前のことでした。
そこでドラッカーさんは、自分が今まで会った方々で心底人生に満足できた人たちには共通したものがあるといわれました。「二つ以上の世界を生きている」がそれでした。要するに一つの世界でよしとしない広範かつ豊かな精神の持ち主だったということでしょう。
まずは今まで経験のない活動に挑戦するとか、いまだ知ることのない人たちと出会うことをイメージしてもらえるといいと思います。そうすることで、新たな強みが発揮できる場を手にできたり、思いがけないサポートが得られたりするでしょう。
――ドラッカーに関する本を書こうと思われたのはどうしてですか。どんな思いに突き動かされてのことでしょうか。
ずっと前から胸に温めていたのです。組織向けというより、一人ひとりの人に役立つ啓発書を書きたいと思ってきました。せっかくなら、ドラッカーさんがあえて書きそうもない種類の本を書ければと思いました。
そこで、個の成長について書かれたドラッカーさんの関連書籍、論文、講演録を調べはじめました。そのうち、ご本人はもとよりご家族、コンサルティング先の人たちや、大学の同僚、昔の学生さんにまで話を聞く機会に恵まれました。
何より僕自身がドラッカーさんからはかりしれない学びをいただいてきましたので、その人生流儀を世界中の一人ひとりの方々と分かち合えればとの思いからでした。