「MBA(経営学修士号)を取れば、これからの人生に明るい兆しが見えてくる」―― あなたはこれをどう受け止めるか。日本の企業は、MBAで身につける「合理的な思考」とはまったく違う感覚で、組織が成立しているケースが少なくない。このような職場で、MBAホルダーが立ち振る舞いを誤るとどうなるか。
今回は、上司の嫉妬心や“付和雷同型”社員が多数ひしめく組織の論理と対立した女性MBAホルダーの結末を紹介する。優秀な女性が「負け組」となった理由とは――。
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■今回の主人公
児玉聡子(仮名 35歳女性)
勤務先:中堅の大学受験予備校。従業員数900人(関連会社含む)。大学受験が加熱していく中、優秀な講師を次々と抜擢し、大きく躍進。しかし、90年代半ばからは生徒数が伸び悩み、売上も現状維持が続く。ここ数年は、売上が減る傾向にあり、経営陣は、新規事業を起こす部署を設けた。
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(※この記事は、取材した情報をプライバシー保護の観点から、一部デフォルメしています)
孤立無援の職場
「みなさん、たったいまから児玉さんに責任者になってもらいましょう……」
新規事業開発部マネージャーの中田裕子(52歳)のうわずった声が、会議室に響く。児玉聡子(35歳)は今年3月に中途採用試験を経て入社し、この部署に配属された。
中田が話を続ける。
「今後は、彼女にいろいろと指示を受けてください。私はこれ以上、タッチしません」
児玉がすかさず反論する。
「私は、いまの進め方では新規事業はいつまでもスタートできない、と申し上げただけです。もっとマーケティングリサーチの精度を上げていかないと……」
中田が右手をふって話を遮った。
「そんな横文字を並べられても、わからないのよ。ここは外資じゃないんだから。自分のやり方で進めたいならば、あなたが責任者としてやればいいんじゃない?」
「…………」
「入社して半年で責任者になる人なんて、この会社にいないのよ。あなたの望むところでしょう?」
中田は、こう言い放って席を立つ。6人の部員は後を追うように、会議室を離れていく。室内には、児玉だけが残された。児玉はここ半年のことを思い起こすと、しだいに空しくなってきた。上司やそれになびく周囲と自分との間には、仕事への姿勢や考え方に大きな違いがある。
上司であり、所属部署の実質的な責任者である中田とは仕事の進め方をめぐり、意見がぶつかり続けた。その都度、職場で孤立していく。心許して話すことができる人は、この会社にひとりもいない。社会人になって12年間、一度も経験がないことだった。