◇「ゾーン」に入る方法

 人の精神状態には「ゾーン」と呼ばれるものがあり、ひとたびゾーンに入ると一切の雑念が消え、自分の潜在能力を引き出しやすくなる。このとき、実は「注意」というリソースはほとんど使われていない。意図的に対象に意識を向けようというのではなく、自然と対象に注意が向いている、さらに言えば対象と一体化しているような状態を指す。この状態では頭の情報処理の精度が高く、仕事もはかどる。

 このゾーン状態に入る方法のひとつに「ルーチンを決める」というものがある。ルーチンは「この動作をすれば集中する」と脳に思い込ませる事前動作だ。2015年、ラグビーワールドカップ日本代表の五郎丸選手がキック前に行うルーチンが注目を集め、その重要性はよく知られるところとなった。勝負の行方を決める大事な場面では、頭の中はストレスでいっぱいになり、不要な妄想が駆け巡ってしまう。そこでルーチンをすると、不安や心配という「内」に向いた意識が、決められた動作という「外」へと向き、頭がクリアな状態になる。

◆「コミュニケーションミス」の原因と対策
◇コミュニケーションのズレと、それを正す質問術

 ある人が「昨日、渋谷で友人と酒を飲んだ」と話したとする。その際、聞き手は話し手の記憶内容に関係なく、自らの記憶の中から店のイメージや飲み会の様子などを頭の中で補完し「話し手が渋谷で友人と酒を飲んでいる光景」を思い描く。この脳内補完された光景が、話し手が意図するものと異なると、コミュニケーションのズレが生じることになる。

 島国で、農耕民族であった日本では共有する情報量が多かったため、細かな指示をされなくても融通を利かせて対応したり、言葉に出さなくてもある程度意思疎通したりできる「ハイコンテクスト文化」を形成してきた。しかし価値観や育った環境が多様化し共有情報が減少していく中、ハイコンテクスト文化の名残を引きずり「これ、よろしく」程度の依頼で済ませてしまうと、コミュニケーションミスは増える一方となる。

 このようなズレを防ぐには、まず話し手が「相手が勘違いしようのないレベル」まで具体的に伝えることが重要である。「早めに頼む」という依頼ひとつとっても、「早め」が示しているのが1時間以内か、今日中か、1週間以内なのか、明確にして伝えることが欠かせない。また聞き手の側も「相手の話を分かったつもり」になっていないか、注意しなければならない。コミュニケーションミスを防ぐには「自分」ではなく「相手」に意識を向けることが重要なのだ。

◆「ジャッジメントミス」の原因と対策
◇ジャッジメントミスの原因

 ビジネスではさまざまな局面で意思決定を迫られるが、中には「なぜ、あんな判断をしたのだろう」と後悔するようなミスがある。このようなジャッジメントミスを減らすには、脳が判断を下す仕組みを理解する必要がある。

 脳には二つの思考回路が存在する。「速い思考」は直感や感情のように自動的に発動するもので、日常生活の大半の判断を下している。一方、「遅い思考」は熟慮と呼ぶべきもので、意識的に努力しないと起動しない。

 そして「なぜ、あんな判断をしたのだろう」と後悔する時はたいてい「速い思考」が原因である。「速い思考」は経験値や知識などの記憶を元に直感的に答えを導き出す、優秀な自動プログラムである。しかし記憶に誤りがある場合や、情報不足だと誤った答えを導き出す。一方で「遅い思考」は意識的かつ論理的に判断を下すときに使われるものである。ジャッジメントミスを減らすには「速い思考」が下す判断を逐一、意識的に「遅い思考」で検証するプロセスが必要となる。