菅直人首相は、3月21日早朝、予定していた大震災被災地への視察を、「天候不良」を理由に中止した。
理由がどうあれ、視察中止は妥当だと評価できる。
前日の記者会見で首相の視察を発表した枝野幸男官房長官は、政府内には視察の是非について「両論がある」と語った。おそらく政権内にかなり強い反対論があったのだろう。また、内部事情をあえて語ったのは、官房長官自身も視察に消極的だったことを推察させる。
もしも視察を強行しても「この期に及んでもパフォーマンスか」と受け取られることが目に見えている。それが政権への不信感を増幅させ、大震災への対応にマイナスの影響を及ぼしかねないのだ。
今、大震災による未曾有の危機に立ち向かう国民の士気はきわめて高い。一部に物資の買い占めの動きもあるが、反面それを抑制する力も働いている。誰もがすすんで被災者のためなら「自分にできることをする」決意を固めて動き出している。
今は「大連立」をすべき時ではない
被災者支援、原発対応に全力をつくすべき
当初から政治には“挙国体制”、“救国体制”を望む声が強い。そんな声を首相は勘違いして、3月19日、谷垣禎一自民党総裁に谷垣副総理大震災担当の具体案で「大連立」を持ちかけた。
自民党など野党は既に、震災直後に政府の対策への全面協力を打ち出し、与野党の震災対策合同会議を共に立ち上げた。大震災対応での実質的な挙国体制は整っているではないか。
大連立の要請に対して谷垣総裁は即座に断り、「引き続き閣外から全面協力する」と明言。「今の時点では総理は現体制をいじる時ではなく、被災者の支援、原発の対応に全力を尽くすべきだ」と苦言を呈した。その通りである。
「民主党議員の多くは、首相の言動を『政権の延命策』と感じている」(20日朝日新聞)らしい。党内でさえそうなのだから、世論はそれ以上に厳しい。ただみんなが言葉(くち)を慎んでいるだけだ。