【中国】過剰な悲観論に注意
もちろん米国経済の循環的な回復が長期化しても、仮に中国の資産市場が崩壊したりすれば、そのショックは米国だけではとうてい吸収できない。すでに、世界のGDPの半分程度は中国などの新興国が占めている。新興国を起因とした世界的な景気後退は、決して想定不可能なシナリオではない。
なかでも問題は中国である。私も含めて多くのプロの投資家は、中国経済の現状についてはかなり慎重な見方をしている。政府公表の経済成長率は2016年も6.5%前後だったが、これはかなり割り引いて考える必要があるだろう。一党独裁体制の下での公的セクターの存在が依然大きいため、イノベーティブな産業が生まれることは期待しづらい。米欧日などの先進国と肩を並べる所得水準まで、中国が経済成長を維持することは難しいだろう。高成長フェーズは終焉を迎え、中長期的な減速局面に入ったというのが、われわれの業界でのコンセンサスである。
一方、日本の経済メディアでは、中国経済を過度に悲観する報道が目立つのも事実だ。2015年に中国人民元の対ドルレートが切り下げられたあとも、「2016年初には中国当局は人民元に対して30%以上の大幅な切り下げを行う可能性がある」と強調するアナリストが多くいた。その当時も彼らは「人民元切り下げになれば、日本でも急速な円高が進む!」という悲観論(私にはどういうロジックなのか皆目見当がつかないのだが……)をばらまいており、メディアもそれを積極的に報じていた。
そんなさなか、2016年初に私は香港の同僚エコノミストとコンタクトをとり、「こうした悲観シナリオにどれくらいの妥当性があるか?」について議論する機会があった。普段から中国当局の姿勢をウォッチし、その考え方によく通じている彼も、「人民元の大幅切り下げが起こる可能性は低く、他国で起きている株価下落などは過剰反応である」との見解を示していた。この議論を踏まえて、私は「チャイナショックによる株安は、投資機会である」との可能性を指摘した。
その後、2月中旬に世界の株式市場はボトムアウトし、「人民元のさらなる切り下げ」シナリオは実現しなかった。金融市場の心理は、時に不安と期待のはざまで大きく揺れ動く。プロの投資家は一定のリスクを承知のうえで、行き過ぎた下落が投資機会になると認識し、資産を運用しているのである。日本の経済メディアが伝えるセンセーショナルな情報だけを見ていると、そうした冷静な判断は難しくなるだろう。
われわれプロの投資家は中国経済に大きな期待を抱いてはいないが、過剰に悲観してもいない。仮に中国でなんらかの金融ショックが起きても、当局が力ずくで抑え込む可能性が高いのもまた事実だからだ。