【欧州】焦点は通貨ユーロの存続

欧州の動向も、世界経済の回復を妨げるリスク要因になり得る。2016年にはBrexitがあったが、このときの株安は市場心理の悪化だけにとどまり、長期化しなかった。英国では今後、カーニー総裁率いるBOE(イングランド銀行)が敢然たる金融緩和で対応すると予想されるので、私自身は大きな懸念は抱いていない。

問題はやはりユーロ圏である。各国の金融・財政を統合しないまま、通貨だけを統一するという発想にはやはり無理があるし、この事実に各国も気づきはじめている。2017年春にはフランスで大統領選挙、同年秋にはドイツで総選挙が行われるが、このタイミングでEU離脱・ユーロ離脱を掲げる政党が躍進したりすれば、再びユーロ存続には疑念が高まるだろう。

こうしたなかで債務危機への懸念や市場の混乱が広がり、国債金利が上昇したとしても、ドラギ総裁率いるECB(欧州中央銀行)はそれを放置したりはしないはずだ。2012年に「あらゆる手段をとる」と発言したときと同様、アグレッシブな金融緩和により事態を収束させるだろう。

ドラギ総裁は金融緩和を徹底する姿勢を崩しておらず、2016年末にも「2017年中は大規模な国債購入を徹底する」と強調している。にもかかわらず、10月には「ECBがテーパリングを検討している」との報道があった。おそらくは、ドラギ総裁に反して金融緩和をやめさせたい勢力が、ECB内部や一部メディアにもいるということだろう(その意味で、経済メディアにおかしなバイアスがあるのは、日本だけの問題ではないのかもしれない)。こうした動きが、短期的にはユーロ圏の経済や金融市場の波乱要因になる可能性はある。

村上尚己(むらかみ・なおき)
アライアンス・バーンスタイン株式会社 マーケット・ストラテジスト。1971年生まれ、仙台市で育つ。1994年、東京大学経済学部を卒業後、第一生命保険に入社。その後、日本経済研究センターに出向し、エコノミストとしてのキャリアを歩みはじめる。第一生命経済研究所、BNPパリバ証券を経て、2003年よりゴールドマン・サックス証券シニア・エコノミスト。2008年よりマネックス証券チーフ・エコノミストとして活躍したのち、2014年より現職。独自の計量モデルを駆使した経済予測分析に基づき、投資家の視点で財政金融政策・金融市場の分析を行っている。
著書に『日本人はなぜ貧乏になったか?』(KADOKAWA)、『「円安大転換」後の日本経済』(光文社新書)などがあるほか、共著に『アベノミクスは進化する―金融岩石理論を問う』(中央経済社)がある。