圭介は別に怠け癖があったり、いいかげんな性格というわけではなかった。いや、それよりも勤勉で、かつ頭もよかった。新しくつくった「リフォーム部門」が収支トントンのところまでこんなに早く達成できたのも、圭介の地道な努力と部下の統率力によるものだ。若い社員は、なかなか「精神論だけ」ではついて来ない。心の底から「よし、それならば、やってやろう!」と納得させないといけないのだ。
圭介にはそれができた。しかし、それだけに、圭介自身も少々理屈っぽく、上司の命令があったとしても、「理路整然とした説明」がないと動かないところがあった。
圭介からしてみれば、そうじをするのが、嫌いなわけではなかったが、そこまでの「そうじの重要性」を感じていなかった。作業場の床の汚れが気になりだしたら、ちゃんと部下に号令をかけてみんなで一斉にそうじをしていた。たぶん、2~3週間に一回くらいは、そうじをしているだろう。そうじなんて、仕事に支障が出ない限り、その程度でいいものだと思っていた。
あまり社長がうるさいので、ついつい、
「そうじをすると売上が上がるんですか? お金が手に入るんですか?」
などと言ってしまったが、これは社長がしつこく言うので、日頃から思っていることだった。そうじを30分する時間があったら、営業を一軒でも取った方が確実に「利益」につながるはずだ。だって、「お客さん」はお金を払ってくれるが、「そうじ」はお金を払ってはくれないのだから…。
「よし、今日は、牧原さんちの仕事の帰りに、大矢さんちのお爺ちゃんの家に寄ってみよう」
山村圭介は、作業着に着替え、部下と一緒に勢いよく事務所を飛び出して行った。