社員も「社長の言うことはもっともだ。ちゃんとできていればこんなことにはならなかった。これからはしっかりホウレンソウをしよう」と、本当に純粋な気持ちで思い、朝会は終わりました。

 さて、数日たってどうなったでしょう。別に変わったことはありません。相変わらず上司は「そんなときは相談してくれよ」「連絡を忘れるなんて、しっかりしてくれよ」「なんでもっと早く報告しなかったのだ」などと怒っています。

 実際に事件が起き、大きな被害が出た直後でしたから、社長の言葉は社員の頭の中に残っているはずです。にもかかわらず、ほとんどの人は頭で理解しただけで、実行には移していなかったのです。

「ホウレンソウを徹底しよう」「何事も迅速に」「挨拶をしよう」「明るい元気な会社」「コンプライアンスの遵守」「5S運動」「原価意識に徹してコスト低減に努めよう」――これらの言葉は抽象的です。理解はできても、「では、今から何をすればよいのか」、つまり何を実行すればよいのかがわからないのです。

 これらの抽象的なスローガンを聞いただけで、実行に移すことができる社員は、先に述べたとおり100人のうち8人です。

 組織の中で、92人とは違うことを8人の社員だけが継続して実行するというのは難しいものです。「おまえ、何をやっているの?」「今までうまくいっていたのだから、そんなことしなくてもいいんじゃないの?」――そう感じてしまう92人に悪気はありません。むしろ人間として自然な心理です。