『ニー哲』を読めば、倫理のテスト対策は万全
岡本 またちょっと話が変わりますが、『ニーチェが京都にやってきて17歳の私に哲学のことを教えてくれた』の読者層って若い人ばかりなんですか?
原田 実はそんなこともないんです。意外に年齢層高めの方々も読んでくださっているようで。アンケートはがきを見ると、「親子で読んでいる」というケースも多いようです。
岡本 なるほど。この本って、主人公の女の子の親子関係も話のベースになっているから、親子で読んでも会話が盛り上がりそうですね。
原田 若い読者も多いのですが、若い人はこの本の捉え方が二分しているなと感じました。一つは、「自分の人生をちゃんと考えるために、哲学者の考え方を知ることができてよかった」というもの。もう一つは「倫理のテストに役に立つ」と(笑)。
岡本 ああ、それはそうだと思います。キーワードが全部押さえられているし、自分たちにもわかるような世界観で説明されているから、これを読めばテスト対策は万全(笑)。実は、私が勤務する大学にヤスパースの専門家がおられるのですが、私が「この本にヤスパースのことが書いてありますよ」と紹介したら、2冊も買っていました。(笑)
原田 えー!嬉しい!そう、ヤスパースって哲学書で全然取り上げられないんです。入門書ならばなおさら、まず弾かれますね。
岡本 確かに、そうかもしれませんね。
原田 哲学者の専門家の方って、その哲学者と雰囲気が似てきませんか?大学時代の先生がキルケゴール協会の理事で、なんか雰囲気が似ていて。
岡本 ああ、キルケゴールだと、あるかもしれませんね。
原田 それってどうしてだと思われますか?
岡本 その哲学者の思想の内容もさることながら、まずは「その人自身」に憧れているから研究したい…という思いが土台にあるせいかもしれません。だからこそ、本を読めば読むほど、研究をすればするほど、自然に雰囲気が似通ってくるというのはあると思います。
原田 サルトルをお好きな人が、ちょっとおしゃれな感じになっていく…。
岡本 いや、私は違うけれど(笑)。でも、原田さんの本で描かれているサルトルは、オラオラ系のスーツを着ていたので、「へー」って思いました。ボーヴォワールとの映画のイメージ?
原田 というよりは、サルトルはずっとタバコを吸っている印象があって、そこからイメージを膨らませていきました。
岡本 なるほど。本の中で描かれている通り、サルトルは女性好きですしね。もう本当、若い女性は手当たり次第だったようですね。哲学者というより、芸術家的。
原田 フロイトもそうだし、マルクスも子どもがいっぱいいたんですよね。
岡本 マルクスなんて『資本論』を書きながらも自分は借金だらけですからね。ルソーも『教育論』を書きながら自分の子どもは捨てていくという。
原田 現代に生きていたら、あっという間に社会的地位を失っていますね。ネットで「ゲス」とか叩かれて(笑)。
岡本 かたやニーチェは、いろいろな女性に思いを寄せるけれども、大体はうまくいかない。
原田 オタクっぽいからじゃないかと思って、本の中でも「現代のネット弁慶」みたいな描き方にしました。
岡本 まあ、ニーチェの場合、好きになった人がほとんど高嶺の花でしたからね。人の奥さんを好きになったりしてね。ただ、彼はとても純情だったんだと思います。だから女性にうまく弄ばれる(笑)。
原田 こういう哲学者の、ちょっとダメな部分と言いますか、社会性に欠ける一面を皆さんに広く知っていただければ、もっと哲学に興味を持ってもらえると思うんですよね。
岡本 なるほど、そうかもしれませんね。
(続く)
※後編は明日(3/14)公開です!