経常収支のこれまでと現状

 下記グラフで金額を見ると実態がわかる。なんとなく、日本は貿易で富を蓄積してきた国だから、貿易収支が大きいのだろうと思ってしまう。2000年代前半まではたしかにそうだったが、リーマン・ショックの2008年あたりから大きく変化し、日本の貿易収支はゼロか赤字の期間が多くなっている。2007年以前は、年間10兆円を超える貿易黒字がふつうの状態だったが、2008年から2010年で黒字幅が縮小し、2011年から2015年まで赤字となった。2016年から黒字へ転じたが、これは原油価格の下落によるものだ。サービス収支は長年赤字である。

 ここ数年の経常収支で特徴的なことは、サービス収支の赤字幅が縮小していることだ。これは、中国人の「爆買い」に象徴されるインバウンド(訪日外国人)の大幅な増加による、旅行収支の黒字化が大きな要因だ。下図を見るとわかるように、2015年(暦年)から、日本人が海外旅行で支出しているお金(支払)よりも、訪日外国人が日本で使っているお金(受取)のほうが多くなり、長年の大幅赤字が黒字へ転じている。この黒字の流れは、2016年時点でも続いている。

坪井賢一(つぼい・けんいち)
ダイヤモンド社取締役、論説委員。 1954年生まれ、早稲田大学政治経済学部卒業。78年にダイヤモンド社入社。「週刊ダイヤモンド」編集部に配属後、初めて経済学の専門書を読み始める。編集長などを経て現職。桐蔭横浜大学非常勤講師、早稲田大学政治経済学部招聘講師。主な著書に『複雑系の選択』(共著、1997年)、『めちゃくちゃわかるよ!金融』(2009年)、『改訂4版めちゃくちゃわかるよ!経済学』(2012年)、『これならわかるよ!経済思想史』(2015年)、『シュンペーターは何度でもよみがえる』(電子書籍、2016年)(以上ダイヤモンド社刊)など。最新刊は『会社に入る前に知っておきたい これだけ経済学』

 また、サービス収支を構成する知的財産権等使用料も大幅な黒字となっている。知的財産権等使用料収支は、2013年から大きく伸び、日本は貿易立国から知的財産立国へステージを変えていることがわかる。世界で見るとアメリカの4分の1程度だが、それでもヨーロッパ諸国をおさえて第2位だ。

 さらに、サービス収支のほか、第一次所得収支が好調だ。第一次所得収支は海外への投資収益だが、これも巨額の黒字が続き、貿易収支が赤字のときはそれを補い、全体の経常黒字を支えている。貿易収支だけを見ると黒字は少なく、ときには、原油価格の上昇によって赤字になる。しかし、サービス収支の旅行収支や知的財産権等使用料収支と第一次所得収支の黒字によって、経常収支は大幅な黒字になっているのである。

 このように経常収支の内訳と現状をつかんでおくと、日々流れてくる経済ニュースについてもっと深く理解できるようになるだろう。より深く学びたい人は、拙著『会社に入る前に知っておきたい これだけ経済学』もぜひ参考にしていただけると幸いである。