19世紀末の米国と似た
ポピュリズムの台頭

進藤榮一・筑波大学名誉教授(略歴は本文末)

──トランプ政権の誕生は、歴史的な視点で見るとどのような意味を持ちますか。パクスアメリカーナ(アメリカの平和)の終焉と見ておられますが、その根拠は?

 ポピュリズムの台頭をアメリカ史の文脈で見ると、19世紀末の状況との類似性を指摘できます。新移民が急増し、巨大資本が誕生し格差が拡大し、大資本と癒着した既存政党が金権政治化を進め、日刊紙などニューメディアが登場します。

 その構造変化の中で、アングロサクソン中心の伝統的な19世紀アメリカ社会が分断、解体され、新しい国のかたちを求め始めます。その運動の先端を、人民(ポピュリスト)党が民主党と担い、独占資本優遇や海外領土拡張に反対します。富を国外に求めるのではなく、国内産業や、農民や人民の雇用や福祉に寄与すべきだという国内優先主義を掲げます。

 国内優先政策が産業基盤を強化し、ニューメディアが市民力を強め、新移民が産業力の担い手となって工業超大国化への成長を助け、アメリカ帝国の道が敷かれます。

 100年後の今、ポピュリスト右派のトランプは、ポピュリスト左派のサンダースとともに、首都に群がる既得権益層を批判し、ウォール街と政治の癒着と金権政治化を批判し、ヒラリーを敗退させました。アメリカファーストを掲げ、中東やウクライナでの米国の軍事介入を批判し、対ロ制裁を解除し、自国の人的、経済資源を国内雇用拡大に向けるべきことを説きます。

 ただ今日の新移民は全人口の4割に達します。そして文化や宗教の著しい違いのためにアメリカ社会に包摂されず、排外主義的なポピュリズムの源泉となります。ものづくり部門が縮小したために、新移民は白人労働者の職を奪う存在と化します。それが、メキシコとの国境の壁をつくり、イスラム諸国の入国禁止の動きにつながります。

 しかしボーダレス化が進む今日、モノやヒトの自由な移動を制限する排外的ポピュリズムは、産業力を逆に弱め、多様な人種がつくる活力を削ぎます。ニューメディアのツイッターなどで大統領令を連発するトランプの政治手法は、民主制度の基盤を切り崩します。富豪や将軍たちが政権中枢にいるトランプ・右派ポピュリスト政権は、民力を削ぎ続けて、パクスアメリカーナの終焉を自ら早めていくのです。

世界経済の中心は
米欧世界からアジア世界へ

──グローバル化が、本当に貧富の格差拡大とテロの横行もたらした元凶なのでしょうか。とくにテロについては、「文明の衝突」が、主要因ではないとお書きになっていますね。

 今日のグローバル化だけを見ていると、格差拡大とテロとの相関関係が見えてきません。もし私たち、19世紀後半に始まる100年前のグローバル化に目を向けると、あの時もまた、貧富の差が拡大してポピュリズムが台頭し、テロが横行しているのです。グローバル化がつくる格差拡大の現実は、映画「レ・ミゼラブル」や、マルクスの『共産党宣言』に表れます。世界各地でテロと反乱が頻発しました。