書くことは自分の立ち位置の確認
行動へのエンジンとなる

奥野:メモしたことでも、どうしたって時間がたてば次第に忘れていきますが、そこで重要になるのが、繰り返し記録して読み返すということです。私の本でも書いたのですが、自分の「行動記録」を残すという方法があります。

 例えば、ライフログノートに自分のやったことをずっと時系列でメモしていると、「お酒を飲みすぎて寝坊した」といった具合に、ダメな自分の記録も頻繁に出てくるわけです。

奥野宣之さん

 人間は都合よく考えがちなので、同じようなミスを繰り返していてもなかなか気がつきませんが、記録して読み返し、体験をちゃんと自分のものにしていけば、そうした「やめたいけどやめられない」みたいな悪習が、嫌でも目に付くので自然とやめられる。

 こういうこともあります。ノートの中の「やめたい行動」を減らして、「やりたい行動」を増やしたくなってくる。あるいは、目標達成したことを行動記録として書くと気持ちがいいので、「今日は予定通りトレーニングした」とか「ちゃんと期日までに原稿を書いた」などと記録して、自分のモチベーションをあげるという、達成感を味わうための書き方もあると思います。

 佐々木さんも、記録を通した自分の盛り上げ方といった方法はお持ちでしょうか?

佐々木:直接的な答えになっていないかもしれませんが、例えば今、私は毎朝、毎夜に体重を測っているんですね。その数値を記録して壁に貼っている。これから2キロから3キロ痩せようと思ってるんですが、その目標を書くとね、書いた数字を意識して自然と体重が減ってきているんですよ。

 書くことの強さというのは、きっとそこにあると思うんです。今は61.8キロだけど、先週は63キロあったから1.2キロ減ったとか、記録しておけば必ず意識に残るわけです。書いたことが、行動の一つのエンジンになるんですよ。

 だから読んだ本のことを書く、出会った人のことを書くというのも、意識を高めることにつながるんです。今日会った人はこんな人だったな、こんなときにあの人に電話してみようか、助けを求めてみようかとか、書くことによっていろいろなことを考え、行動へと移すエンジンになるわけです。

奥野:体験をサッと通り過ぎていかせず、一回書くことで意識に残るようにする。そうすることで、何か問題点や解決策に気づくこともあるし、新たな行動を促すような発見にもつながる。特別なことは何もないような日常生活や雑務の中にも、前に進むヒントはいっぱいあるということですよね。

佐々木:以前、読書ノートをつけていたときに、著者と題名と出版社と読んだ印象を書いていたんですね。ある時、著者ごとに並べ替えてみたら、俺はこの作家の本をすごく読んでるなあとか、いいと思ったのにこの作家は実際はちょっとしか読んでないといったことがよくわかったんですね。

 そうしたら、この作家をもっと読んでみようとか思うじゃないですか。それは書くからなんですよ。書くことによって自分の立ち位置を再認識したり、自分の進んでいく方向を確認することができるわけです。

奥野:そうした効果が生まれるためには、記録し続けて、情報を蓄積し、醸成していかないといけないですね。一日二日でなく、長い期間、自分を定点観測していくことで、「自分はこういう行動パターンがあるのか」「本当はこんなことを考えているんだな」と発見することは私もよくあります。

 ところで、佐々木さんからご覧になって、今のビジネスマンは記録することはできていると思いますか?

佐々木:いやあ、ほとんどできていないと思いますね。少なくても、私の周りではあんまりやっている人はいませんね。ちょこちょこっとメモする人はいるけど、徹底して記録しようという人はあまりいませんね。

奥野:そうですね。私も体験したこと、読んだもの、聞いたことをノートを使ってライフログとして残すことをずっとやっていますが、長い期間続けていたり、些細なことでも漏らさず書いておいたり、ちょっとした紙片をとっておいたりという、ある種の徹底ぶりが大事だと実感します。

 それは単なる情報ストックとしてのメモの効果を超えて、楽しく生きたり、仕事で充実感を感じるためにも大きな効果を生んでいると思います。

佐々木:みんな、記録することのメリットに気がついていないんですよ。だから、私や奥野さんの本を読んで、記録の大切さに気がついてくれるといいですね。少なくとも読者は最初から多少記録に対して意識を持っている人だから、読んだあとに行動に移しやすいですよね。