――具体的にどのような動きが出てくると思いますか。

 まず、「工業社会×グローバル化」で先進国中間層が取り残された、という大きな流れに対応する3つの動きが強弱あい交えながら出てくることになるだろう。

 1つ目は、富の分配政策を変えること、すなわち税と政府支出のあり方を中間層に受ける方向にすること。2つ目は、保護主義的政策でアメリカがグローバル貿易の中で「勝ち組」になるようにしようという動き。3つ目に、今後AI、ビッグデータによる「第4次産業革命」が加速していくなかでアメリカが一番になり、そこで中間層が豊かになる流れを作ろうという方向性が出てくると思う。

 ただ、そうはいっても、法律化していくもの、予算を伴うものについては議会の承認を得る必要があるから、貿易はある程度自由度を持ってやらせてもらえるとしても、税制などはこれから紆余曲折ある時期に入っていくと見ていたほうがいいだろう。新しい政策を大きく打ち出しても、そう簡単には実行できない、ということだ。

 経済の問題を超えて、目をこらしておくべき潮流も重要だ。いま起こっている世界の不安定さの大きな要因は、軍事力も経済力も、基軸通貨も圧倒的な強さを誇るアメリカが世界の安全保障の保護者となる「パックスアメリカーナ」という一極集中のモデルから、多極化の時代に向かい始めたことだ。

 アメリカだけでなく中国、インドも加えた「3極」、EUが今の苦しみを乗り切った場合には彼らも含めた「4極」の時代に向けて、世界のガバナンスや軍事バランスが作りなおされ始めた。ただ、それがどこへ向かい、どのような姿になるかはまだ見えない。その途上で自らが安全保障リスクを抱え込むのは嫌だ、ということで、トランプ政権は軍事力の再強化に乗り出そうとしている。

 もちろん、軍事力強化は国内の雇用も増やせる可能性があるので、そういうインセンティブも働いているだろう。

企業は主要国の「選挙カレンダー」を作って備えよ

――そうした環境の中で、日本企業はこれまでと違う、どのような戦略が必要になりますか。

 トランプ政権が誕生した際もブレグジットの際も、まず為替が大きく振れた。地政学リスク、政治リスクの時代には、為替のボラティリティがこれまでよりも高まるというふうに考えるべきだろう。

 当たり前のようだが、輸出企業を中心に為替の影響を大きく受ける企業は、「為替のボラティリティ」が起こるタイミングを注視することと、可能な限りのボラティリティ対応策を持っておくことが重要だ。

 同じような流れはEUでも起こっているわけだから、今後3年間のうちに先進国の主要な選挙がいつあるか、そのタイミングで為替が大きく振れたとき、自社にどんなインパクトがあるか想定しておくことが重要になる。主要国の選挙を軸にした "ポリティカルカレンダー"を作り、備えをしておくことはいますぐにでもできるはずだ。

 もうひとつ重要なのが、「リスクのポートフォリオ」という考え方を導入することだ。

 金融機関以外の企業の大部分は、事業ポートフォリオを考えるとき、将来、世界のどの地域のどの事業がこれくらいキャッシュを生んで成長が期待できるから、じゃあそこに投資しよう、という発想の仕方をする。これはあくまで「チャンスのポートフォリオ」だ。

 だが、これからは「リスクのポートフォリオ」を見なければならない。自社のどの地域のどの事業が、政治リスクや地政学リスクが顕在化したときに、どれくらいのマイナスインパクトを被るのか。その可能性は、限りなくゼロなのか、2~3割なのか、あるいはそれ以上なのか。こういう目で、事業ポートフォリオを「チャンス」「リスク」両面から定期的に見直し、必要に応じて経営資源の再配分をする。

 これがこれからの事業ポートフォリオマネジメントの基本となろう。

「チャンスのポートフォリオ」と「リスクのポートフォリオ」の両方を見た上で、したたかにリスクテイクをすることが求められる時代なのだから。