15年間で実に6倍!
レッドソックスの成長力

 第1回の今回は、あるスポーツチームを例にして、「顧客ずらし戦略」とは何かをより具体的にご説明したいと思います。

 そのスポーツチームとは、MLBのボストン・レッドソックスです。松坂大輔投手や上原浩治投手などが在籍していたこともある、日本人にとっても比較的なじみのある球団ではないでしょうか。

 レッドソックスを経営の面から見てみると、すさまじい勢いで成長していることがわかります。正確には「レッドソックスを含むグループ(フェンウェイ・スポーツ・グループ=FSG)」ということになりますが、2001年時点で1億5200万ドルだった売上高は、2016年には少なくとも10億ドル近くに達したと見られます(フィールドマネージメント調べ。球団から正式にリリースされた情報ではなく、各種報道等から推定)。単純化するため1ドル=100円で換算する(以下同)と、152億円から1000億円。15年間で実に6倍に増えた計算です。

 外から見る限り、その過程で大きな役割を果たしたのは「顧客ずらし戦略」だったのではないかと思います。

 野球の興行を主たる事業とする球団が劇的に売上を伸ばす。その理由を何の手がかりもなく想像すると、「野球」を活用した新規ビジネスに取り組み、それが成功したのだろうと考えられます。たとえば、レッドソックスプロデュースのグローブやバットをつくって売り始めたのではないか、と。

 しかし、材料となる革や木を調達し、高い品質で商品化し、小売店との良好な関係性を築き、在庫管理を効率化して、顧客の声を新商品の開発にフィードバックする、といったメーカー的なスキルは球団にはありません。グッズを外注で用意する程度のことなら理解できますが、それだけで800億円以上の売上を積み増し、6倍にすることは難しいでしょう。一朝一夕に、ナイキやアディダスといった世界的ブランドに対抗できるはずもありません。

 FSGは、たしかに事業の多角化によって急成長を果たしましたが、あくまで「自分の持ちもの」を洗い出すところからスタートしたのだと思います。

 FSGは2007年にストックカーレースNASCARの「Roush」の株を50%取得したのに続き、2011年には英プレミアリーグのリバプールを買収して完全子会社化しています。売上規模は「Roush」が100~140億円、リバプールが300億円前後です。

「興行主」としてのスキルをレーシングチームや海外のサッカークラブに持ち込んだと言えますが、これは日本の自動車メーカーが欧州で自動車メーカーを買収するような“横展開”に過ぎません。FSGの知恵、つまり「顧客ずらし」はここから始まります。