韓国の大統領選挙で「共に民主党」の文在寅(ムン・ジェイン)氏が当選した。これは、韓国で9年続いた保守系の政権から革新系の政権へと、政治の流れが変わったことを意味する。新大統領の基本政策は、北朝鮮との融和・対話の重視、日米との距離を保つ外交政策、財閥解体と大規模な雇用創出と見られ、これまでの保守系政権とは異なる。何よりも、北朝鮮の脅威に対して、国際的に連携し同国に圧力と制裁をかけ、核開発の放棄を迫ってきた行動とは全く違ったアプローチがとられようとしている。文政権下の韓国は国際社会から孤立してしまう恐れがあり、朝鮮半島情勢が一段と混迷する懸念はむしろ高まっていると言える。
保守政権とは違うアプローチ
「財閥解体」で逆に民間活力を削ぐ恐れ
政治的な潮流の変化や政策転換の影響は、様々な論点、見解があるが、財閥の改革を抜きにして文新大統領の改革を論じることはできないだろう。
李明博(イ・ミョンバク)、朴槿恵(パク・クネ)と続いた保守系政権の下で財閥企業を優遇する政策が進められた。この結果、経済格差が拡大した。特に、朴前政権下での財閥系大手企業と政治家や大統領側近の癒着が発覚して以降、保守政治への反感は高まってきた。有権者の不満をうまく取り込むことで、文氏は大統領の座を射止めた。
戦後、韓国では経済発展のために政府が主要財閥を支援、財閥企業はその庇護の下で輸出を中心に、収益を獲得するビジネスモデルが追求されてきた。国内の消費市場が小さい中で、輸出主導の経済は、海外情勢に揺さぶられることも多く、アジア通貨危機の際には、国際通貨基金の管理のもとで、財閥の解体などが進められたこともあった。だが根本的な問題は是正されず、むしろ、李政権以降は、政府主導で業種ごとに財閥企業を核にして海外市場を狙う積極的なグローバル戦略が展開されてきた。
こうした過程で、経済活動で生み出された富の多くが財閥企業関係者や有力政治家の間で分配されるシステムはむしろ強固になり、財閥や有力政治家と「縁故」を持たない一般の人々に成長の果実を公平に分配するシステムができていなかった。
韓国は経済の民主化を進めて、民間企業の活力を高めなければならない。財閥改革を進めることは、韓国経済の民主化を進めることに他ならず、理論的にこの発想は正しい。
だが韓国経済に深く根を下ろす「疑似資本主義」体制を変えることは容易ではない。
サムスンや現代などの財閥系の企業を解体すれば、さらに雇用が悪化、賃金も伸び悩むなど、経済には当面、マイナスの影響のほうが強く出るだろう。財閥グループ以外の企業の競争力に不安がある中、財閥解体は逆に民間部門の活力を削ぐことになりかねないのである。