ちなみに前述のケースだと、60歳時点でローンは約1950万円残る(11年目以降の金利を2%と仮置き)。退職金が2000万円以上あったとしても、それを全部繰り上げ返済に使ってしまうと、老後資金が確保できなくなる。

 では年金生活に入ってもローン返済を続けるのはどうだろうか。40年くらいサラリーマンを続けた人の年金額(老齢厚生年金と老齢基礎年金の合計額)は200万円くらい(現役時代の平均年収が550万円の場合)。妻が専業主婦の期間が長いと、妻の年金額は80万~90万円程度である。世帯の年金収入は300万円前後なので、年間120万円のローン返済を75歳まで続けていくのは現実的ではない。

「老後に家賃を払い続けるのが不安だから、マイホームを購入したい」と考える人が多いが、老後に返済が続くローンを組んで購入するなら本末転倒となる。

 老後の安心が得られるかどうかは、ローンの借入額と組み方次第だと覚えておこう。ローン返済はどんなに長くとも65歳まで。65歳からローン返済開始年齢から引いたものが、あなたにとっての最長の返済期間となる。それで試算すると、毎月返済額が多額なったら、それは借入額が身の丈以上だというシグナルだ。物件の予算を見直したり、頭金を増やしたりと冷静に再考する必要がある。

ひとり分の年金で暮らすのは難しい
シングル女性は「購入」を選択肢に

 購入を選択肢に入れて検討したほうがいいケースもある。シングル、特に女性の場合だ。男性に比べ給与水準が低いため年金額が少ないうえ、シングルだとひとり分の年金で暮らさなくてはならない。

 40年くらい働き続けても年金額は160万円くらいという女性は少なくない(現役時代の平均年収が370万円の場合)。160万円の年金収入から家賃を払うと、年間収支は大きく赤字となる。家賃込みの支出が300万円とすると年140万円の赤字。65歳から90歳までの赤字分として、3500万円をリタイアするまでに準備する計算となる。

 男性並みの退職金をもらえる女性は、大企業勤務の人に限られるだろう。60歳まで家賃を払いながら、3000万円以上の老後資金を準備するのは、よほど年収が高いか、計画的に貯蓄ができる人でないと難しい。

 男性並みの給与水準ではないシングル女性の場合は、「住宅ローンという仕組みを使って、老後の住居費(ローン返済)を働いている間に前払いする」プランが有効なのだ。

 誤解のないように申し添えると、「シングル女性は絶対に買ったほうがいい」と結論づけているわけではない。「ひとり分の年金の中から家賃を払い続けるのは大変だ」ということをぜひ知っておいてもらいたい。40歳くらいまでに頭金を貯めて、60歳完済、20年返済で組むのが安心だ。繰り上げ返済をせずに、毎年の貯蓄は老後資金を貯めていくのがいい。

 反対に年金生活に入っても賃貸生活を続けられる人もいる。それは収入が高く共働きを続けてきて年金額が多い人。夫婦の公的年金の合計が400万~500万円というカップルもたまにいる。さらに企業年金の上乗せがあると、世帯の年収収入が500万円を超えるケースもあるだろう。こうしたカップルの場合、年金生活に入っても家賃を払い続けることができる。

 購入か賃貸で迷ったとき、「気持ち」だけで考える人、「損得」だけで考える人がいるが、一面的要素だけではなく、以上のことを参考に複合的に考えてみてはどうだろうか。

(ファイナンシャルプランナー 深田晶恵)