ベンチャーの退職金制度にとって、
確定拠出年金が有力な選択肢となる理由
もし、あなたの会社が初めての退職金・企業年金制度をデザインするのであれば、筆者は確定拠出年金制度の採用を強くお勧めします。
ベンチャー企業にとって確定拠出年金の強みは、運用責任を会社が負わないことです。国内最大規模の企業年金は数千億円の資産を抱え、数万人のOBへ給付を行う責任を持ち苦労しています。運用が数年マイナスになっただけで企業の負担は莫大なものになります。
確定拠出年金は退職給付債務の対象とならないことも大きなメリットです。本気で上場を目指している会社の場合、退職一時金制度や確定給付型の企業年金制度がある場合、その準備状況によって退職給付債務の認識と今後の対応を迫られます。上場へのハードルをわざわざ増やす選択をするべきではありません。
退職金もコストをかける以上は社員のやる気を引き出すツールにしたいものですが、確定拠出年金の場合「見える化」がしやすいのでこの点でも有効です。ベンチャー企業のフレッシュな印象に確定拠出年金はプラスでこそマイナスにはなりません。人材採用の際などは確定拠出年金を採用していることを印象づけてもいいでしょう。
ベンチャー企業は確定拠出年金をこう使え
企業型の確定拠出年金にはいくつかの導入パターンがあることは過去の連載(第5回)で紹介しました。従業員数が100~300名程度なら総合型の確定拠出年金も選択肢になります。それ以上の規模で今後の拡大も見込めるのであれば単独型の確定拠出年金で制度設計をしておくと、その後のハンドリングには自由度が担保されます。
掛金については給与制度に連動させるシンプルなものとしておくといいでしょう。基本給のX%が確定拠出年金の掛金である、というようにしておけば、賃金も退職金も業績に連動して会社は多く払ってあげる、というメッセージが明確になります。
確定拠出年金の掛金は、翌月末までの納付が義務づけられており、遅配はできません。もし、会社の資金繰りが不安定でしばしば給与の遅配をしたり社会保険料の支払いを遅らせている場合は、財務基盤が落ち着くまで制度導入は見送るほうがいいでしょう。
制度の導入に際しては、社長が社員にしっかり話してモチベーションアップのツールとして有効活用してください。準備はしっかり行っておき、会社が最高益をたたき出したあとなどに「退職金制度を確定拠出年金を使って導入します」「実質的に給与が●%アップしたものと考えてください」のようにうまくメッセージを伝えていくといいでしょう。
社員も「うちの会社も退職金があるしっかりとした会社になってきたな」と喜んでくれるはずです。