中退共をあいだにはさむのも選択肢

 退職給付制度には4つの類型があると、過去の連載(第3回)で紹介していますが、退職一時金制度については事前準備の税制メリットがないため、これを活用する現代的意義はほとんどありません。

 また、確定給付型の企業年金を運営することは、運用責任を会社が負い積立不足が生じた場合はその償却が求められます。企業会計上は退職給付債務の認識が求められ会社の貸借対照表に影響を与えてしまいます。上場を目指す企業の選択肢としては避けたいところです。

 確定拠出年金以外にもうひとつ残されているのは「共済」でした。中小企業退職金共済は、中小企業でなければ加入できないので、上場を目指して資本金を増強したり社員数が増えたときは脱退しなければなりませんが、「最初の制度」として活用できる選択肢です。

 もし会社が大きくなって中退共を抜ける場合、社員ひとりひとりの持ち分を精算し、企業型の確定拠出年金に資産を引き継ぐことが認められていますので、大きくなったときに現金精算になることもありません。

 また、初めて中退共に加入したときと社員の掛金を増額したときは一定の条件にもとづき助成金がもらえます。会社の負担が少し割安で退職金制度を導入できることにもなりますので、「最初は中退共→企業規模拡大の折に企業型の確定拠出年金へ」というパターンを一考してみるといいでしょう。

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 ここまで、中小企業の退職金・企業年金の基礎を紹介してきました。退職金・企業年金制度は100社あれば100パターンあると言われるほど多様性があります。それは会社の人事メッセージと直結していたり、会社の歴史的沿革と直結しているからです。退職給付制度は会社の個性といってもいいかもしれません。

 しかし、その個性が「わが社らしさ」を発揮しているか、また「先代社長ではなく、二代目社長の私らしさ」を反映してくれているかは別問題です。ぜひ退職金・企業年金制度を、自分が経営する会社の「自分のツール」として活用してほしいと思います。

 社長と同世代あるいは社長より若い社員にとっても退職金・企業年金制度が魅力あるツールとして機能すれば、会社の業績をもう一段階伸ばし、先代社長の会社を引き継ぐだけでなく、さらに大きくすることもできるはずです。

 もし退職金・企業年金にお悩みの経営者がありましたら、ぜひ本書をお読みになるかご一報ください。本書があなたの会社をもっと素晴らしいものとするためのお手伝いになれば幸いです。

ベンチャー企業が退職金を作るなら<br />「確定拠出年金」一択である理由

山崎俊輔(やまさき・しゅんすけ)
1995年株式会社企業年金研究所入社後、FP総研を経て独立。ファイナンシャル・プランナー(2級FP技能士、AFP)、1級DCプランナー(企業年金総合プランナー)、消費生活アドバイザー。
若いうちから老後に備える重要性を訴え、投資教育、金銭教育、企業年金知識、公的年金知識の啓発について執筆・講演を中心に活動を行っている。
企業年コンサルタントとしても活動しており、特に確定拠出年金については、業界団体である企業年金連合会で首席調査役として企業担当者の研修担当や企業向けガイドブックの執筆を行い、さらに厚生労働省社会保障審議会確定拠出年金の運用に関する専門委員会委員も務める(2017年2月から)。「人事労務」等専門記事、マネー誌でも執筆ほか、日経新聞電子版で『人生を変えるマネーハック』を連載中。
著者ウェブ  http://financialwisdom.jp  twitter: @yam_syun