DNAが同じなのに、違う病気にかかる双子がいるのはなぜ?
―― 我々のほとんどは、自分が受け継いだ遺伝的運命を変えられないと思い込んでいます。
モアレム 特定の遺伝子が特定の病気にかかりやすいかどうかを決定するという意味ではそれはほとんどの場合本当のことでしょう。しかし私が読者に伝えたいことは、インタラクション(相互作用)の重要性です。自分が前世代から受け継いだことを変える能力だけではなく、次世代に受け継ぐことを変える能力がある、ということです。ひと世代前の日本人と今の日本人とを比べると、今の日本人のほうが背が高くなっています。遺伝子の影響があったとしても、食べる量や質、そしてどのように生活を送るかで、遺伝子の発現に対して非常に大きなインパクトを及ぼせることがわかっています。
もし人生というものが、生物学的に、また遺伝子的にあまりにもたやすいもので、自分の体や自分に対して何の挑戦もしなくていい、というのであれば、私たちは繁栄しなかったでしょう。日本の武術をみるとわかると思います。鍛えれば鍛えるほど強くなり痛みを感じなくなります。私たちの体も、遺伝的にそれと同じように機能するのです。
私がいつも患者に説明するのは、宇宙飛行士の話です。宇宙飛行士が無重力の宇宙に行くと、骨量の減少が生じます。体を支える必要がない宇宙では骨が必要とされなくなってくるので、特定の遺伝子のスイッチがオンになります。これは宇宙では適応的かもしれませんが、地球に戻ってくると大きな問題になります。だから、宇宙飛行士が地球に戻ってきて、ミッション完遂を知らせる報道写真を撮る際、特別にあつらえられたリクライニングチェアにそっと横たえてもらわなければならないのです。
―― 一卵性双生児はDNAが100%同じですが、遺伝子発現は異なります。遺伝子発現がどれくらい重要であるか、説明していただけますか?
モアレム 遺伝子発現は生命そのものである、と言っても過言ではありません。DNAそのものは不活性で核の中でじっとしているだけです。それ自体はあまり活動をしません。音楽にたとえると、DNAは楽譜のようなものです。楽器で演奏しないかぎりそこに書かれたメロディは聞こえません。
細胞はその遺伝子が発現して機能するのです。それが私たちの生命が辿る道を決定します。一卵性双生児に遺伝子発現の違いをみることができるのは、興味深いことです。彼らは同じような生活を送ってきたはずですが、実際にはそれほど同じにはなりません。その理由は、遺伝子発現が異なることに起因しているのです。
>>>「遺伝学者×医師」の意外な診断ツールに迫るインタビュー第2回は、2017年6月15日公開予定です。