「住むなら中古」という選択が増えている背景には、中古住宅の魅力が増していることが挙げられる。たんに「安い」「買いやすい」というだけではない。中古購入のメリットについても観ていこう。
「築20年で価値ゼロ」
からの脱却を
豊嶋太朗氏
日本では、なぜ欧米のように長く使える家を建て、メンテナンスしながら使い続けないのかという批判は、以前からあった。住宅の寿命を決めるのは、建てる際の素材や性能の問題だけではなく、その後どう使うか、維持し続けるかという面が大きい。さらには、最初のユーザーだけでなく、2番目、3番目のユーザーを想定するかどうかでも、事情は大きく異なってくる。
住宅は、もちろん個人が所有し使用するものだが、国全体でとらえた場合、重要な社会的インフラでもある。「もっと長く使える住宅を普及させる」ための政策として、長期優良住宅の普及の促進に関する法律が生まれたのが2009年のことだった。
これから建てる住宅を長寿命化させていくとともに、すでに建っている膨大な中古住宅を長く使い続けることも重要だ。そのためには「選んで残す」「残した住宅の性能アップを図る」という2つの視点が欠かせない。
中古市場を活性化させれば、中古物件が「マーケットの洗礼」を受けることで、市場で評価されない劣悪なものは淘汰され、古くても価値のあるものだけが残る。このことが日本の住宅全体を健全化させることにつながる。劣悪な中古が減っていくことは、防災面でもきわめて重要だ。
中古市場の育成が急務。その認識が具体的な数字を伴って政策に打ち出されたのが10年6月。新成長戦略のもと、「20年までに中古・リフォーム市場を倍の20兆円規模にする」ことが決まった。市場を倍の規模にするというのは、並み大抵のことではない。どんな方策を使うのだろうか。
(出所)国土交通省資料
「そのためにはまず、木造の中古住宅の価値が築20年で評価されなくなっている現状を変えることが重要。もともと“築20年で価値ゼロ”とは、事業用資産の減価償却の考え方としてはよいが、一般の人の住宅取得とは関係のない話だ。中古住宅は、イメージによって安く売買されてきた経緯があり、本来はもっと価値があるものだ」と語るのは、国土交通省住宅局で長く中古住宅政策に携わってきた豊嶋太朗氏(現在は鹿児島県土木部建築課住宅政策室室長)。
中古住宅のポテンシャルを上げるためには、「安心・安全の確保」と「魅力づくり」という2つの要素が、クルマの両輪のように働かねばならない。「そのために新成長戦略では、安心・安全に向けては保険制度(瑕疵保険)の普及を図り、魅力については中古市場に新たなプレーヤーの参加を募ることを議論している」(豊嶋氏)。
新成長戦略に基づく新たなトータルプランは、現在省内で議論中で、9月ごろ明らかになる予定だという。
リノベーション関連企業が加盟するリノベーション住宅推進協議会では、今年2月、集合住宅の共用部分を含む1棟全体のリノベーション品質基準「R3(アールスリー)住宅」と、戸建て住宅のリノベーション品質基準「R5(アールファイブ)住宅」を設定した。同協議会が推進してきた「R1住宅(マンション専有部分)」に加え、要望が高かった2タイプの整備が整ったことになる。これら基準に適合したリノベーション住宅は、検査のうえ必要な改修工事を施し、瑕疵保険に加入、住宅履歴情報を保管される。