「困った人物」を攻略する方法
こんなこともありました。
かつて、私がかまぼこなどのすり身の製造販売を手掛けていたころのことです。
日本のすり身企業と提携して、世界の主要市場ごとに、その地域性に合わせて開発したすり身製品を輸出販売していたのですが、なかでも重要な市場だったヨーロッパの輸入代理店の社長はオランダ人でした。彼は、私との取引に応じたことで、ヨーロッパにすり身を普及させた大功労者。今でも、お付き合いをしている好人物です。
当時、彼は年に1~2回は私のところに足を運んでいました。翌年、ヨーロッパに輸入する製品を決めるためです。私たちが「来年はこれでいきたい」という試作品を用意して、彼が試食をします。そして、彼の意見を反映させた試作品を夜の間に準備。翌日、また試食してもらう。そして、最終的に「これでいこう」と決めるわけです。1年間のビジネスの成否を左右する、非常に重要な機会でした。
ところが、あるとき、そのオランダ人社長の都合が悪く、別の男性が来社したことがありました。そして、困ったことに、彼は、何度試食品をつくっても納得しなかったのです。「ちょっと塩分が足りない」という指摘を受けて、塩分を足した試作品をつくると、今度は「甘味が足りない」と難癖(なんくせ)をつける。何をやっても納得してくれない。来る日も来る日もダメ出しをされるので、開発部長の女性が泣きながら私のところにやってきました。何日もほとんど徹夜でろくに寝てないのか、疲れ切った表情でこう訴えました。
「いったい、どうしたらいいのかわからなくなりました。もう、味がめちゃくちゃになってるんです……」
これまでの試作品の味を確認した私は、カラカラと笑ってこう言いました。
「あの人は知ったかぶりをしているだけで、何も知らないんだよ。君には何の問題もない。いいから、去年売っていた製品を出してみなさい」
「えーっ、そんなことしてもいいんですか?」
「だって、去年のカニかまのほうが、この試作品より絶対においしいじゃないか」
ところが、彼女は「私には、そんなこと出来ません」と拒むので、「じゃあ僕が明日行くよ」と伝えました。「困った人物」を攻略する方法を教えようと思ったのです。
自分の仕事に「プライド」をもつ
そして、5日目の試食を迎えました。去年のカニかまぼこをうやうやしく彼の前に置きました。彼はもったいつけて箸(はし)を取って口に含みました。一口食べると何度もうなずきながら、こう言いました。
「いやぁ、さすが小西さんだ。ついに私の求めているものが出来たね」
「それはよかった。光栄です」
私は、礼儀正しく返答しましたが、彼にさんざん泣かされてきた4人の女性部下たちはみんな顔を真っ赤にしてうつむいていました。もちろん感激したのではなく、笑いをこらえていたのです。
そのあとでみんなを集めたら、彼女たちはなんとも言えない表情をしていました。私は、「“知ったかぶり”に付き合う必要なんてないんだよ。もちろん、お客様の意見は真摯に聞き入れなければいけないけれど、“知ったかぶり”に付き合う必要なんてない。君たちは、すり身をつくり続けているプロだ。そのことに誇りをもちなさい」
そのとき以降、彼女たちに欧米人に対する恐れはなくなりました。