水の感触、土の匂い、腰をかがめる忍耐力。やってみて初めてわかることが多く、食べ物への感謝を味わう「農業体験」。

 仕事、仕事に追われる毎日。ふとした瞬間、モノをぶん投げたくなる衝動に駆られることはないだろうか。実際に投げたとしても他人を傷つけず、被害が少なく、後腐れのないモノを……。そう、たとえば街を歩く修学旅行生が、その夜投げつけ合うであろう枕といったような――。

 今は昔、学生時代の修学旅行先と言えば、京都、奈良などの古都や、広島、長崎、沖縄といった歴史体験を色濃く感じさせる場所が定番だった。また首都圏であれば東京ディズニーリゾートや原宿、国会議事堂など、硬軟織り交ぜたスポットを巡る学校が多い。新名所・東京スカイツリーの正式オープンが待たれるところだ。

 そんな修学旅行先の最近の傾向に、「職業体験」というキーワードが挙げられる。

 東京を旅行先とする場合、テーマパークを安易に選ばず、企業訪問や留学生との交流など、異文化との接点を積極的につくる学校が増えてきた。関西では坐禅や舞妓衣装を着るといった体験が人気である。

 また、地方農家に4、5人のグループが訪れ、畑仕事の手伝いなどを行なう農業体験の評判も上々だという。

 こうした農業体験における一般的な宿泊スタイルは、“民泊”。旅館やホテルなどの宿泊施設に泊まるのではなく、民家や公民館などに少人数で生活・宿泊することで、生徒たちはよりローカルな生活体験を得られる。

 修学旅行から帰ってきた後も、家族ぐるみの付き合いが続くなど、その地域の一ファンをつくる意味で非常に有効だ。学校側・生徒保護者からすると、旅行費用を抑えられるメリットもある。

 東日本大震災の影響で、東北地方の農家へ農業体験をする予定だった学校は、西日本を中心に行き先を変更している。ただ、その場合も、代わりに街を散策するのではなく、農業体験先として生徒を受け入れてくれる農家を探し、修学内容の変更がないようにしている。

 情報を手に入れやすいこの時代、“自分の目で見ること・考えること”が今後さらに求められるだろう。好奇心を養い、何でも自分でやってみる。生徒の成長に好影響を与えるきっかけが、“旅行”ではなく“修学”にあるよう内容を考えるのが、本来の修学旅行であるはずなのだから。

(筒井健二/5時から作家塾(R)