東京都内の生活保護の現場で長期にわたって経験を重ねてきた渡辺潤さんは、私に中傷チラシを「事実を巧妙に歪曲した紋切り型」と評し、「相模原事件のような、とても恐ろしいものを感じます」と語る。現在、渡辺さんは専門学校で生活保護について教えているが、「自分が体験した一部の事例を根拠にして、このチラシのような主張をする学生もいます」ということだ。

「団体、個人名も連絡先も記載されていない無責任なチラシですが、生活保護に関する事実を知らずに読む人には、本当に大きな悪影響を与えると思いました……。当事者にとっては、精神的なショックは計り知れない……」と衝撃を隠せない中で、渡辺さんは、働いていながら生活保護以下の生活水準から脱却できないワーキングプアの急増という背景から目をそらさず、「まず、この人々の処遇改善、所得再分配、社会保障の拡充が必要」と言う。

 また、「生活保護基準が下がれば生活保護を使っていない低所得層の生活も苦しくなる」「生活保護は、医療、年金、介護などを削減しやすくするための“最初の生贄”として利用されている」「社会保障制度が縮小していくと、すべてが“家族の助け合い“に押し付けられる」という事実を丁寧に訴える必要性を強調する。

 同じく、東京都内で生活保護ケースワーカー・査察指導員(係長相当)として長年勤務していた田川英信さんは、「なかなかコメントしづらいというか……。ここまで他人を貶めるということに哀しくなりますが、このチラシを配った方も、本当はここまで生活保護利用者に反発せずに済んだはずです。日本は『自分の力で暮らしていけないときに国が面倒をみるのは当たり前』と考える人が少なくて、『自分の責任でしょ!』と考える人が6割以上、国際比較でダントツの第1位なんです。そういう価値観や社会認識があるからこその、このチラシでしょう。こんな錯覚をさせないような教育が必要だと思います」という。

 しかし、教育が結果として現実離れしてしまっては意味がない。厚労省はどう考えているのだろうか。私は、厚労省の生活保護担当者にもこのチラシを見せ、意見を求めた。

生活保護の意義と効果を
「費用対効果」で評価する愚

 このチラシの中で、私が最も気になったのは、チラシの文面に見られる“コスパ”感覚だ。チラシの中では、「生活保護の人々はもともと問題が多いので就労支援は無駄」「子どもがかわいそうだからといって、生活保護世帯の親に保護費を多く渡してはいけない」など、主に費用対効果という観点から生活保護が語られている。しかし、チラシの視点や観点は一面的・短期的で、長期的には極めて“コスパ”が悪い結果となりそうだ。