夏の行楽シーズンを前に、観光地では集客作戦に余念がない。「温泉+豪華な食事」は、どの宿にも共通する誘客手段だ。しかし、「近年、日本人は旅行をしなくなった」と言われる。そのため、宿の経営も明暗がくっきり現れるようになった。
「あら、お客さんいたのね、この旅館。昨日チェックインしてからずっと、お客も従業員も見なかったんでね」
全国有数の名湯で知られる某温泉地でのこと。早朝、湯船に浸かっていると後ろから初老の女性に声を掛けられた。その女性は、宿があまりにも閑散としているとガッカリした様子だった。
無理もない。この温泉地ではここ数年、旅館の閉鎖が相次いでいるのだ。主を失い雑草が生い茂る旅館、昼でも真っ暗な大型旅館と、集落はすっかり活気を失っている。地元の観光協会は「ここ数年、温泉宿の廃業が続いているのです」と無念そうに語る。
この温泉地に来たのは二度目だというこの女性は「週末ならもっと人出はあるだろうけど」と前置きしながら「以前はこんな寂しい旅館じゃなかった」と語る。再びこの旅館を訪れたのは「安かったから」。インターネットの宿泊予約サイトを検索すると確かに安い。集落全体が「料金のたたき合い」に陥っているのは、予約サイトを見れば一目瞭然だ。